チェックシート書かないと出られない部屋「柚木くんたち、ちょっといい?」
定時で上がろうとしたところ、部長に呼び止められた。なんでこの人はいつもいつも、帰ろうとすると呼び止めるのか……俺はモヤモヤしつつ、つかさと一緒に部長のデスクの前まで行く。
「柚木くんたち、今月のチェックシート、ちゃんとやった?」
「チェック、シート……ですか???」
あ、確か先月で辞めた先輩から引き継ぎのときに聞いたっけ。だけど、なんでそんなこと今聞くのだろうか?と俺は黒い気持ちを抱えつつ、記憶の奥に眠っているチェックシートを記入した日のことを思い出す。
それはA4の用紙にギッシリと、アンケートのようにチェック項目が並び、右端には○×を記入する正方形が上から下までズラーっと並んでいた。
「これも重要な仕事だから」先輩はそう言ってその用紙を数枚俺に渡した。 早速自分のデスクに戻り作業に取り掛かった。わざわざ聞くほどでもない質問事項が何件も何件も続き、やってるうちにウンザリしてきた。俺が先にチェックを入れて、それをつかさに渡す。つかさがチェックを入れて、全て書き終わると先輩に渡した。その作業はものの10分もかからなかった。
「あれさ、あのあと、チェック漏れが発覚してねえ。危うく大事故に繋がるところだったんだよ……君たち、ちゃんとチェックした?」
「してます!ちゃんとふたりで二回見てますし……あ!」
言ってる途中で気がついた。2見目はつかさがやっていたことを。
「つかさ、ちゃんとチェックした?」
「うん!あまねがOKってしたから俺もOKってしたよ!」
あああああ!!やっぱりい!!!!!
つかさはただ俺のチェックした項目をただ同じようになぞっただけで、つかさがチェックしたのは作業内容ではなく俺だった。まあ、確かに俺も?つかさが二見するし?別にいっかと、最後の方はテキトーにやっていたのは否めない。
俺たちの頭の悪そうなやり取りを、部長は苦々しい顔で見ていた。
「事故を未然に防ぐのが、あのチェックシートの役割だ。これも大事な仕事だよ。今後はくれぐれも注意するように」
「は、はい!」
俺はオフィス中に響くぐらい、めちゃくちゃでかい声で返事をした。が、隣のつかさはどこ吹く風で部長のデスクの卓上カレンダーをぼーっと見ている。取引先A社から貰ったA社のキャラクターがついたものだ。カレンダーに印刷されたピンク色したウサギのキャラをじっと見ている。
それ、そこまで面白いもんじゃないだろ……。
俺は心の中でつかさに突っ込んだ。
「それでは、今日はお先に失礼しますっ!」
話は終わったかと思い、部長に帰りの挨拶をすると、あー!ちょっと待って!と遮られた。「まだ話は終わってないよ。おかげでチェック項目が増えちゃってね……君たちは責任取って、今日中に残りのチェックシートを全部確認してから帰るように!」
小部屋に入ると、奥にホワイトボードが置いてあった。ホワイトボードには黒マジックで大きくこう書かれていた。
『チェックシート書かないと出られない部屋』
なんなんだ?二次創作にありがちなタイトルネームみたいに書きやがって!流石に悪ふざけが過ぎる!
この会社、大丈夫か?そもそも求人広告に「アットホームな社風です♡」なんて書くようなセンスだ、大丈夫なわけがない。俺は先行きが不安になった。
小部屋に会議用の長机がコの字型に並んでいる。机の上には端から端までギッシリと書類の山、山、山。
「ええええっ!!これゼッタイ俺たちの分以外もあるじゃん!!」
隣にいるつかさは書類の山を見てキョトンとしている。そう、ただキョトンと見てるだけだ。……俺にはわかる。ただキョトンと見ているだけで、きっと何も考えてない!
これ、なんとか終電までに終わらせないと…。
「つかさはあっちの端からチェックしていって。これはこっちからやるから」
つかさは俺の顔を見て一旦キョトンとしてから、
「わかった!俺、向こうからやるー!」嬉しそうに端の机へと
席に着き、ヨシ!と顔を頬でパシンと叩く。
気合い入れ、ヨシ!
早速、目の前のチェックシートに取り掛かろうと、山の上いちばん上の一部を手に取る、最初のページから箇条書きでギッシリとチェック項目が印字されている。
「この前より増えてるじゃん!」
部長が言った通りだが、思った以上に増えている。文字の大きさもこころなしか、小さくなっている気が……。
«つづかない♡»