いつだか彼女に『ワイより先に死ぬか、後に死ぬかどちらが良いか?』と聞いた、いつもの調子で呆れて、返って来るのは溜め息かと思えば『お前より後だ』と返ってきた。彼女らしく真面目で、彼女にしては夢見がちな返答に素直に興味が湧く、理由を聞けば『散々お前に寝顔を見られているからな』と彼女は不敵に笑った。なら今夜もその寝顔を頂戴しようと細い腰に手を回せば、調子に乗るなと手をつねられた。
そんな思い出を、もう何度も、何度も、脳内の劇場で映している。幾度となく回されたにも関わらず、記憶というフィルムは薄れない。それを喜ぶべきか、悲しむべきか。判断するには長い年月が経ってしまった。
色褪せない記憶に逆らうように、世界は変わっていく。眼帯を取り、剣を外し、ぼろぼろのマントを脱いで外見だけでも世界に溶け込む。それでも変わらない、変えられない記憶が彼を置いて世界は変化していく。
かつて赤土だったアスファルトの高台から、世界に取り残された彼は、自分を置いて高く空へと伸びる建造群を見つめる。
「残念やったな、結局見られへんで」
フンと鼻を鳴らすと、缶コーヒーを飲み切りロングコートを翻すと、口うるさい相棒が待つジープへと煙草を吹かしながら向かっていった。
「休憩終わったん?」
「まあな」
「どしたん? 目にゴミでも入った?」
「そんなところや」
次に劇場に映るのは、彼女の安らかな寝顔だった。