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    koshikundaisuki

    @koshikundaisuki

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    koshikundaisuki

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    【赤この】木葉さんお誕生日おめでとうございます。

    #赤この
    izuThrush

    シンデレラボーイこの歳になると別に誕生日なんか嬉しいもんじゃないって言うけど、俺は同窓会みたいで好きだ。
    大学の同級生、高校からの友達、家族、同僚や幼馴染たち。
    個人でラインくれる人もいれば、バレー部の奴らみたいにグループラインで祝ってくれる人もいる。
    そのままダラダラと近況報告したり、飲みにいく約束したり、結婚・子どもができた報告を受けたり、最終的には俺が「本当におめでとう」つって会話終わらせてるんだから面白いもんだ。
    今日だけで3人結婚の報告を聞いたし、あー俺らもそういう歳だよなぁって、一箇所がやたら草臥れたソファに寝そべりながら、特別な日だからとコンビニで買ったちょっといいビールを飲む。いつもより少しだけいい食材を使った惣菜をつまむ。
    せっかくだから商店街の方まで行って揚げたての竜田揚げでも買ってくればよかった、と後悔しながらも「でも心なしかもたれるんだよなぁ最近……」というボヤきは、頭を振って忘れることにした。
    ケーキはない。一人で食うのもあんまりっていうか、正直ちょっと侘しいもんな。ロウソクに火でもつけた暁には炎の揺れる薄暗い1Kで「あいつもあいつも結婚かぁ」としんみりしてしまいそうだった。
    一缶開け、もう一本行ってしまおうかと考える。明日も仕事だ。でも誕生日なんだし。いやいや、安い葛藤を胸に、ローテーブルに目をやる。つまみはほとんど残っていなかった。やっぱり竜田揚げ買えばよかったかなぁ。コンビニに唐揚げはあれど、竜田揚げを置いているかどうかはなかなか厳しい賭けだった。そうなると俄然食べたくなってくる。
    もう諦めて〆ようか。体を起こして立ち上がろうとした瞬間、すっかり落ち着いていたスマホから着信音が鳴る。赤葦だった。

    時計を見た。23時42分。

    『……ッ、木葉さん!?お、誕生日、おめでとうございます!』

    残り18分前に滑り混んできた赤葦の声は、奴らしからぬ慌てようだった。息切れもすごい。外にいるのだろう、街の喧騒がBGMになっている。あるキャラクターが合宿免許のPRをしているのが聞こえた。そして「フォーク要りません」という早口で小さい赤葦の声も。ありがとうございましたー、という間延びした声が遠ざかり、一層の喧騒に包まれた。


    俺は含み笑いをしながら「おー、ありがと」と返す。
    『違うんです、こんなに遅くなるつもりじゃなかった……一番って誰でした?』
    悔しそうな声を隠しもしない。笑いを堪えるのが大変だ。
    「木兎だよ。電話でさらっと掻っ攫ってったわ」
    『……クソ……今年も』
    木兎はあれでなかなかマメで、誕生日は12時きっかりに電話をよこし、さっと祝いの言葉を述べては「明日早いから寝るわ」と言って電話を切ってしまう。
    その上ライングループでも重ねて祝ってくれる。それをきっかけにみんなからもメッセージが来るわけだが、既読がひとり分足りないことに気付いていた。赤葦だ。
    大手出版社勤務の赤葦は、中でも週刊連載の少年誌担当というブラック労働なんのそのというポジションにおり、昼夜逆転は当たり前の生活だった。ワークライフバランスや働き方改革という言葉が飛び交った時代には「なんですかそれ、聞いたことない」と淀んだ瞳を明後日の方向に彷徨わせたものだ。
    今日だってきっと担当作家との打ち合わせやら接待やら会議やらで日時の概念がなかったのだろう。
    気にすんなよ、と言いかけた電話の向こうで、タクシー!と叫ぶ声が響く。そんな大声出さなくても止まるだろうよ、と苦笑しながらふと気付く。こいつ、俺んち来ようとしてない?
    程なくしてそれが正解であったことがわかる。赤葦が(恐らく)運転手に告げたのは俺のマンションの住所だったからだ。

    『23時59分までに着けます?飛ばしてください、警察は振り切っていいんで』
    『いや私は全然よくないですよ』
    一緒に聞こえてきた運転手の冷静はツッコミに笑いつつ、俺は赤葦に告げる。
    「無理して来なくていいよ。お前、最近全然休んでないんだろ?こっちきてから帰ったら睡眠時間減るだろうが」
    そりゃ俺だって会いたかったけど、もう大人なんだから誕生日に会えなくっても拗ねたりしない。これは年上としての矜持でもあった。
    しかし赤葦はなんともふてぶてしく『木葉さん家で寝るに決まってるでしょう』と言う。馬鹿ですかと言わんばかりの声だった。台無しにされた俺の思いやりも感傷も、あまりの事態に笑っている。ロマンティックもクソもない。

    それなのに「どうしても今日、木葉さんに伝えたいことがあるんです」と真面目なトーンで言うから、俺は急にドキドキしながら「わかった、待ってる」と言うしかなかった。


    赤葦は電話を繋いだまま、時折「今◯◯の交差点にいます」とか「今●●病院の前にいます」とか「今公園の近くにいます」とかメリーさんばりの実況をしてくれていたが「ちなみに充電は残り2%です」という報告からまもなく、「木葉さんの家の前にいます」という言葉を聞く前に通話が切れてしまった。

    酒が入っているにしてもおかしくて、ソファに倒れ込んで笑った。最近こんなに笑うこともなくて、俺の腹筋は痛かったし、涙がボロボロ溢れた。あーあ、と天を仰いで息を整えながら「せっかくなら竜田揚げあるか見て貰えばよかったな」と思う。

    明日まで残りあと2分。
    窓の外から車の走行音が近づいて来た気がして、俺は部屋を飛び出した。今日、赤葦が伝えてくれる言葉を聞くために。

    終わり
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