Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    koshikundaisuki

    @koshikundaisuki

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🍣 🍨 🍼 💴
    POIPOI 45

    koshikundaisuki

    ☆quiet follow

    12/23 影菅アドベントカレンダー

    咳をしても影山は今日から東京に行っている。連日泊りでの仕事だった。
    帰ると家は真っ暗で、リビングからカラカラとななみちゃんが回し車を走らせる音だけが聞こえた。
    電気をつけると一瞬音が止まった。

    「ただいまぁ」
    当然、ななみちゃんは「おかえり」などとは言ってくれない。この感じはなんだか久しい。
    テーブルに荷物を置くとき、置き手紙に気が付いた。
    「予定では26日に帰ります。ななみの面倒おねがいします」と影山のやたらデカい字で書いてある。
    「ななみって、お前の女かよ」
    思わずひとりごちるが「ちがいます」と否定する声もない。ケージに近づくと、ななみちゃんは回し車から降りて、こちらに近寄ってきた。
    朝に用意されたエサはもうほとんど残っていない。ケージの掃除を軽くすると、水を取り替え餌を与えた。
    「ひとの男取るなよな」とパンパンに膨れた頬をつつく。
    ななみちゃんは俺の指を餌だと思ったのか、ひくひく動く鼻をくっつけてきた。


    さて、自分のご飯はどうしようか。
    影山が来るまでは、正直しっかり夜を食べることはほとんどなかった。面倒だからだ。
    しかしアスリートの身体を支えているとなればそうもいかない。我ながらちゃんとした生活をしてこれたものだなぁと思う。4割は鍋料理だったけど。
    ひとりだとあまり腹も減らず、野菜を切ることすら億劫だった。昔に買ったカップ麺があったよなぁ、と思いながらキッチンへ入る。
    麦茶でも飲もうと冷蔵庫を開けると、ラップのかかった皿があった。蛍光ピンクの付箋が貼ってある。
    「ひとりだとカップラーメンとか食べる気がしたので」と付箋いっぱいに書いてあった。
    見透かされていたことに思わず苦笑する。

    影山がつくったピーマンの肉詰めを食べてから、風呂に入った。毎週見ているドラマを見て、ひとりごとを言った。
    ぼーっとしながら飲んだハイボールに咽て、「咳をしても一人……」と呟く。その瞬間、テーブルに置いてあったスマホが震えた。
    影山からのLINEの通知だった。送られてきたのは東京タワーの写真だった。夜景を撮る難しさというものはあれど、こんなにブレブレなことってあるだろうか。
    「東京タワーすげえ震えてない?東京寒いのかな」
    俺が送ったボケはまんまとスルーされ、「ご飯食べました?」とだけ送られてくる。
    「うまかった」
    「よかった」
    「仕事終わった?」
    「まだ少しかかるみたいです。ホテルに戻ったら連絡します」
    「いいよ、疲れてるだろ。明日も頑張れよ」
    「菅原さんも」
    そのあとに送ったスタンプに既読がつかなかったので、撮影に戻ったのかもしれない。
    いつの間にかドラマが終わっていたのでテレビを消そうとしたが、リモコンがテレビ台のそばにあった。
    面倒くさいなあと思いつつも立ち上がり、テレビの電源を消す。ふと違和感を感じてテレビ台を見返した。
    「あれ、カメラがない」
    影山に贈ったライカは、確か今朝までここにあった。フィルムが何枚か減っていたから、知らない間に撮ったのだろうとは思っていたが、まさか東京に持って行ったのだろうか。

    明日は金曜日だ。よし、もう一息。クリスマスを前にテンションの上がり切った子ども達を相手にしなければならないので、英気を養うために早めに眠ることにした。

    夢の中で、俺は見知らぬ男性の前で正座をしていた。何やら説教をされているようだ。俺は自らの落ち度を謝罪し、彼の怒りを宥めながらネチネチ何か言われるのをひたすら聞いていた。この男は誰なのか。なぜ俺は叱られているのか。よくわからないが何となく俺が悪い気はした。夢とは、そんなものだ。


    嫌な夢だったな。と思いながらベッドから降り、しばらくぼんやりする。見知らぬ男、というもののどこか見覚えがあるような気がした。確実に俺の知り合いではない。
    はて、誰だったか。これまた影山が用意してくれていたスープに焼いたパンをつけて、あれこれ考える。
    呑み込んだパンが変なところに入り、咽た。慌ててティッシュを引き寄せたその瞬間、ハッとする。
    俺は「咳をしても一人」でググった。この自由律俳句を詠んだのは尾崎放哉という俳人だ。顔を検索してみると、ビンゴだった。
    夢から目覚めてだいぶたつもので、記憶は薄れつつあるがこんな顔だった気がする。少なくとも髪型や格好はこれに近い。
    昨晩俺が「咳をしても一人」と呟いた瞬間、影山から連絡がきたことを続けて思い出し、「だから怒られたの?」と思った。

    まあ、確かに俺は一人ではない。ちょっと格好つけてみただけのつもりだったが、尾崎放哉からしてみれば誤用(そんなつもりはなかったが)され、軽々しく引用されるのは遺憾だったのかもしれない。
    そんなことを考えていたら、軽く遅刻した。



    終わり


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💒💒💒🐁🗼😭👏☺💗Ⓜ🇴®🇪❣☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    koshikundaisuki

    DOODLE菅受けワンドロより「あざやか」をお借りした影菅の小話
    雑談「んでな、俺は言ってやったわけ。『いや、それは唐揚げへの解像度低すぎるだろ!』って」

     通常ならここでひと笑い起こるはずだったが、凪。まさに凪。俺はゆっくりと斜め後ろを振り返る。神妙な顔をした影山と目があった。話を聞いていなかったわけではないらしいな、と頷く。
     影山との会話は度々こうなる。例えば昼食を食べたあと「あーもう腹パンパンだわ、パンだけに」と言おうものなら、笑うでもなく、冷たい目を向けてくるでもなく、まじめな顔で「今の、どういう意味ですか?」とか言ってくる。俺が駄洒落を言うときなんて8割何も考えずに口にしてるだけだから、本当はくだらない、と一笑に付してくれるくらいがありがたいのだが、真面目に尋ねられてしまっては俺も誠意をもって「今ランチでパン食ってたじゃん?だからお腹いっぱいなことを『お腹パンパン』って言葉に言い換えてパンと掛けてんだよね」と説明することになる。ギャグは鮮度が命であり、説明なんてしようものなら笑いの神様は死ぬ。解説を聞き、影山は「なるほど」と納得した様子で頷く。その目は「やっぱ菅原さんはすげえ」とでも言いたげに輝いている。影山は感動はしてるが別に笑いはしない。なぜなら笑いの神様はもう死んだからだ。
    3138

    koshikundaisuki

    DOODLEラッキーすけべでお題をいただきました、影菅ノssです
    ラッキースケベ(仮)聞いて欲しい。これは俺の懺悔と、とある追憶の記録だ。

    俺、菅原孝支は宮城県内某所で小学校教諭をしているごく普通の成人男性だ。俺には年下の彼氏がいるのだが、それはそれは可愛く、そして時には大変格好良い男で、バレーボール男子日本代表にも選ばれたトップアスリートである。名前は影山飛雄という。詳しくはWikipediaでも見てほしい。

    愛し愛されかれこれ8年ほど恋人としての関係が続いている。遠距離の時期が長く続いたこともあり、取り立てて大きな事件などは起きなかった俺たちだが、半同棲をはじめて1年半がたつ今、影山を怒らせてしまった。理由はさほど重要ではないので割愛するが、俺自身の不甲斐なさが原因だ。俺は自らの過ちを認めて非礼を詫び、彼の中にあった誤解を解くためそれまでの成り行きを丁寧に説明し、最後に影山を本当に愛していることを伝えて仲直りとなった。焦った。影山が小さな不満を貯め込み、それが表面に漏れてしまうことは珍しくないが、面と向かって不満を爆発させたのはほぼ初めてだったので、俺たちの関係もこれまでかと思った。抱きしめられた影山は落ち着くためにゆっくりと深呼吸をしたあと、シュンとした表情のまま「俺も、すみませんでした」と呟いたのでたまらない気持ちになる。でもそうだよな。長い付き合いだからこそ、きちんとお互いのことを話しいくべきだよな。
    3126

    recommended works