君の嫉妬は醜くない(水麿) 笑顔ってきっととてもいいものだ。笑えるのは本当に素晴らしいことだ。分かっているのにみっともなく足は止まった。
廊下の先のほうで、畑へ向かう水心子が仲間と笑っている。――そんななんでもない当然のこと。そのくせ熱いスープをひっくり返したようなこの心地はなに。
胸を押さえて、死角に入って、必死に呼吸を繰り返した。ばくばく心臓が暴れている。向かうつもりだったのは彼がいるほうだったのに、清麿は駆けるように踵を返した。
――ねえ、その笑顔は。
***
畑へ着いてからだった、ヘアピンを借りるのを忘れていたと気づいたのは。
近頃、ありがたくも手入れ部屋に世話になることがなかったため、横の髪の毛がだいぶ伸びてしまっていて、俯く仕事ではとても邪魔なのだ。
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