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    💀🐙
    💀とキスすれば唇の青が自分に移ると思っている🐙の話
    付き合ってるイデアズ

    #イデアズ
    ideas

    その青色を僕に移して

     前から気になっていたことがある。イデアさんと深い口づけを交わしたら、僕の唇にその青が移ってしまうのだろうか、と。
     僕たちは、おそらく今どきの高校生にしては珍しいくらいに清いお付き合いをしている。だから口紅の色が移るような……濃厚な口づけなんて、したことがなかった。
     もしそんなことができたら、青に染まった唇に気づかぬふりをしてそのまま寮に帰りたい。ジェイドあたりにお楽しみでしたね、だなんてからかわれるだろうが、しかしそれも僕たちの関係を見せつけられるのなら悪くない。
     そのまま自室へ帰って、鏡を見つめてイデアさんを感じたい。唇をなぞって、イデアさんと交わしたであろう溶け合うような口づけを思い出したい。もしかしたら、その日は浮かれて顔を洗えないかもしれない。朝起きたときに青が擦れて消えかかっていることに、物寂しい気持ちになりたい。
    「次アズール氏の番だよ」
    「あ、すみません」
     ゲーム中に一体何を考えているのだろう。僕はプレイに集中する。ふと、目の前に座るイデアさんを見る。唇を触る癖のあるイデアさんは、人差し指の関節と親指の間にその青い唇を挟み、僕の次の手を待っている。
     今更気づいたのだが、その指に全く青が移っていない。それだけ触れば、少しはつきそうなものなのに。
    「イデアさんの口紅って、ティントか何かですか?」
    「てぃん……なんて?」
     この反応はティントなんて聞いたこともないな。それにしては青い口紅を選ぶなんて、なかなか上級テクだと思うが。
    「そもそも僕、口紅なんてつけてないけど……」
    「え?」
    「この青はもともとの色だよ」
    「なんですって?」
     この鮮やかな青が……自前? 何がどうしてこのような発色になっているかは定かではないが、僕のささやかな夢は一瞬で崩れ落ちる。
    「アズール氏? どうしたの?」
    「……どうもこうもないです。今日はとことん僕の得意なゲームに付き合ってもらいますからね!」
    「え? なにゆえ? 僕なにか怒らせた?」
     全く八つ当たりにもほどがあると自分でも思うが、そうでもしないと気持ちの行き場がない。青が移らないどころか、甘くて深い口づけをするような雰囲気になるのも当分は難しそうだと思いながら、僕は好みのゲームを頭の中で列挙した。

    「ねえアズール氏、なんで怒ってるの?」
    「怒ってませんよ」
     先程のゲームを終え次のボードゲームをプレイしている間も、僕のイデアさんに対する理不尽な怒りは続いていた。
    「怒ってるでしょ、さっきから意地の悪い手ばかり」
    「策略と言ってください」
     プレイしているのは僕の得意とする戦略ゲーだ。イデアさんの言う通り、僕は先ほどから際どい手ばかり使っている。
     まったく、我ながら程度が低い言動をしていると思う。イデアさんは微塵も悪くないのに、後に引けなくなってずっと怒っているふりをしているのだ。たしかにお揃いの唇になれないことは残念に思ったが、イデアさんと一生深い口づけをできないだなんてこともなし、僕の夢なんて本当に些細なことだ。
     とっとと機嫌を直して恋人との楽しい時間を過ごしたかったが、この人の前だとどうしても甘えてしまって素直になれない。
    「僕の唇の色が自前って知ってからだよね?」
    「何のことやら」
     隠す気もなかったが、やはりバレてしまっている。しかし、怒りの理由があまりにも身勝手過ぎて、言いだすこともはばかられる。
    「……こんなまともじゃない色、気持ち悪いって思った?」
    「は?」
    「えっ。違うの?」
     ……なんてことだ、そんな誤解をされていたのか。たしかにこの人は整った容姿とは裏腹に、やたらと自分の外見を卑下する。僕はその端正な顔を間近で見るだけで胸が高鳴るというのに、正直に伝えたところで取り合ってもらえた試しがない。
     きっと、この唇の色にもコンプレックスがあるのだろう。僕の態度は、彼の繊細な部分を傷つけてしまったらしい。これは幼稚な理由で怒り続けるわけにはいかない。一刻も早く誤解を解かねば。
    「……すみません、そうではないんです。僕の小さな夢が潰えただけで」
    「夢?」
    「あなたと深い口づけをしたら僕の唇にその青が移って、お揃いになるんじゃないか、って思ってたんです」
    「へ? 深……え?」
     イデアさんは面白いくらいにうろたえる。無理もない、僕たちはまだほんの一瞬触れるだけの口づけしかしたことがないのだから。
    「そしたら、そのまま寮に帰ってしまいたいと思っていたんです。僕がどこに行って何をしてきたか、すぐにわかるでしょ?」
    「……匂わせってやつ……?」
     イデアさんは信じられないという目で僕を見返す。たしかに、イデアさんはそういうことをあまり見せびらかしたいタイプではないだろう。僕も実際にそんなことができるかはわからない。でも、想像するだけなら自由だ。
    「だから、そんな僕のささやかな夢が叶わなくなってしまって、少し拗ねていたんです。子どもっぽい態度をとってしまってごめんなさい」
    「はぁ……」
     自分でもびっくりするくらいに素直に謝ることができた。イデアさんはなかば呆れ顔だ。かと思えば、何かを思案するように首を傾げる。
    「じゃあ……叶える?」
    「え? なにをです?」
    「なにって、アズール氏のその夢だよ」
    「あなたの唇の色は自前だから無理でしたって話でしょ」
     だから僕の夢は叶わないまま終わったのだ。でもそんなたいそうな話ではない。未練が全くない、と言えば嘘になるが、前提が間違っていたのだからどうしようもない。そもそも、何をどうやって叶えるというのだ。
    「でも、僕の唇の色が自前だなんてこと、他の人は知らないでしょ」
    「どういうことです?」
    「だから青い口紅を買ってきて、それをつけて深い口づけ……ってやつをしよう、って話」
    「え?」
     ……とんだお誘いをされてしまった。それは手段と目的が逆になっているのでは。イデアさんは真剣に言っているのだろうか、それとも冗談? 彼の今の表情からは、それらは読み取ることができない。
    「唇を青にすることが目的では……」
    「まぁ、そうだよね。じゃあ、やめとく?」
    「やります」
     思わず脊椎反射で返答してしまう。だってこれは、イデアさんと進展するチャンスでもある。子どものじゃれあいのようなかわいらしい口づけしかしたことのない僕たちが、年相応の、大人の口づけをするということなのだ。
    「ふふ。食いつきすぎでしょ、そんなに青い唇になりたかったの?」
     そうではない、そうではないが、イデアさんの自然な笑顔が見られたからあえて反論はしない。イデアさんは先に部屋に行ってて、と自室の鍵を僕に渡し、購買部の方角へと去っていった。
     僕が買いに行かなくてもいいのか、てっきり僕が行くものと。人の多い購買部に一人で行くなんて、イデアさんに耐えられるのだろうか。しかし、僕に青色の口紅を買いに行く勇気があるかと問われれば答えはNOだ。サムさんなら無闇に詮索はしてこないだろうが、恋人の唇と同じ色の口紅を買うところなんか誰かに見られたら、恥ずかしいことこの上ない。
     イデアさんはそこまで考えて自分で買いに行ってくれたのだろうか。イデアさんのくせに僕を気遣うなんて……そんなことを考えながら、僕は彼の自室へと向かった。

    「買ってきたよ」
    「おかえりなさい」
     お店に目当ての商品がないかも、だなんて心配は一切していなかった。ミステリーショップは化粧品の品揃えも豊富だ。イデアさんはポケットから口紅を取り出し、ベッドに腰掛ける。
    「これ、アズール氏が自分につけてそのまま帰る?」
    「本気で言ってるんですか」
    「ごめんて、冗談だよ」
     笑えない冗談だ。たまにイデアさんはこうやって悪ふざけをする。まさか流石のイデアさんでも、僕が青い口紅をつけたいだけだなんて本気で思っているはずがない。
    「ねえ、僕が塗ってもいいですか」
    「え、いいけど……」
     イデアさんから口紅を受け取って、キャップを外す。数ミリ出し、少し手の甲に塗って色味を確認する。
    「いい色ですね」
    「そう?」
     イデアさんの反応を見るに、深く考えて買ったわけではないのだろう。それでも、この青はイデアさんの唇の色に近い色味をしていた。
    「塗りますよ」
    「うん」
     イデアさんと向かい合ってから自分の提案を後悔する。この状況は正直かなり恥ずかしい。イデアさんは僕から目を逸らしているが、それでもその整った顔を間近で見ずにはいられない。まったく、なんでこんな綺麗な顔をして……
    「アズール氏……?」
    「は。すみません」
     このままじゃ埒があかない。小さく深呼吸した後、そっとイデアさんの唇に口紅を押し当てる。口紅越しのイデアさんの唇の感触は、思っていたより柔らかい。今からこの唇と深い口づけを交わすのだと思うと、ますます胸が高鳴ってしまう。
    「薬用リップくらい塗ったらどうです? 冬とか大変でしょう」
    「そうだね。笑うと口の端が切れる……」
     あまり手入れされていない乾燥した唇は、口紅の表面を少しばかり削る。今後もイデアさんと口づけすることを考えると、ある程度手入れされていた方が触れる側としてはありがたい。今度保湿リップでも押し付けようか。塗ってくれるかはわからないが。
    「はい、塗り終わりました。と言っても、あまり変わりませんが……」
    「まぁ、そりゃそうだよね。それで……その……」
     そう言ってイデアさんは言いづらそうに視線を手元に落とす。そうだ、ここからが本番だ。あまりに清い付き合いをしている僕たちには、ここからどうやってそういう雰囲気に持っていくのかがさっぱりわからない。
    「とりあえず、座る?」
     イデアさんは少し端に寄り、ベッドに一人分のスペースを作る。僕はその隣に、うっかり少し間を空けて座ってしまう。
     これから口づけしようというのに、このスペースは何だ。イデアさんの膝の上に座るくらいの積極性を見せたらどうなんだ。しかし残念ながら僕も恋愛初心者だ、そのような気概はない。今だってイデアさんの部屋に二人きりでいるというだけで、かなり緊張しているのだ。口づけしやすいよう隣に密着して座るだなんてことが出来るはずがない。
    「はぁ……」
    「な、なんです」
     隣から大きなため息が聞こえる。ため息をつかれる心当たりが大いにある僕はひどくうろたえてしまう。こんなに離れて座ってしまって、呆れられただろうか。
    「情けないなと思って……」
    「ぐ、僕だって必死で……」
    「え? いや、アズール氏じゃなくて僕がね?」
     イデアさんが? イデアさんの所作はなかなかスムーズだったように思う。僕がやらかしてしまっただけで。何をそんなに落ち込むことがあるのだろうか。
    「今の少女漫画だったら、おいでとかなんとか言って膝の上に座らしてたよ。なのに僕はお隣にどうぞって……」
     そう言ってイデアさんはもう一度ため息をつく。僕がやろうとしたことと全く同じことを思っていたようで、思わず笑ってしまう。お互い経験が浅いぶん、考えることも一緒なのだろうか。
    「あの」
    「なに?」
    「膝、乗ってもいいですか」
    「ヒェッ。あ、はわ、はい」
     イデアさんの反応に笑いながら、立ち上がってイデアさんと向かい合う。僕を見上げるイデアさんの顔は、いつもの青白い顔とは違いほんのり赤く染まっている。
    「重かったらごめんなさい」
     そう言いながら、僕は片膝ずつベッドに乗せ、ゆっくりと腰を下ろしてイデアさんの膝の上にまたがった。
    「は、羽のように軽いよ」
    「どの少女漫画のセリフですか、それ」
     先程のことを反省しているのか、無理をしてかっこいい恋人を演じようとするイデアさんをかわいらしく思ってしまう。僕はそっとイデアさんの頭を撫でた。
    「イデアさん、好きです」
    「え、僕も好……ん……」
     イデアさんが言い終わる前に、その唇をふさぐ。触れるだけの口づけ。ここまでなら、今までも何度かやったことがある。
    「アズール氏、不意打ちは良くないよ」
    「ふふ、ごめんなさい」
     イデアさんに睨まれてしまった。それでも僕は何だか楽しくて、目の前の恋人にもっと色々やりたくなってしまう。再び口づけようと顔を近づけると、待って、と静止させられる。
    「今度は僕の番だよ」
     そう言うと、イデアさんは僕の頬を両手で包み込む。冷たい手のひらが火照った顔に心地いい。
    「アズール氏……」
    「ん……」
     一度そっと触れられたかと思えば、少しずつ角度を変えて何度も何度も口づけられる。その唇の感触は、先ほど口紅を塗った時に感じたものよりずっと柔らかくて気持ちいい。しつこいくらいに触れたり離したり、息継ぎをするのも一苦労だ。
    「は、ぁ……」
    「大丈夫?」
    「はい……いろ、移りましたか?」
    「まだだね」
     そう言うと、イデアさんは僕の唇をぺろりと舐める。
    「ちょ、ちょっと」
    「やっぱり水気がないと移らないと思うんだよね」
    「そうなんですか?」
    「たぶん」
     イデアさんにあるまじき曖昧な回答だ。でも、イデアさんもおそらく手探りでやっているのだろう。自分の口紅の色を恋人に移そうとする経験なんて、そうそうあるものではない。僕はただなすがままにされる。
     イデアさんは再び僕の唇に触れ、その舌を使って少しずつ僕の唇を湿らせていく。イデアさんが角度を変えるたびに水気のあるリップ音が鳴り響き、僕の耳を甘く刺激する。
    「い、いであさ、ん……ぁ……」
     呼吸の余裕がなくなった僕は、唇が離れた瞬間を狙って抗議の意味を込めてイデアさんの名前を呼ぶ。その声の艶っぽいこと。今の声は僕が出したのだろうか。これは抗議というより完全にもっと深いものを求めているときの声だ。恥ずかしくなって俯きたいのに、イデアさんの両腕に捉えられているためそれも叶わない。
    「待ってアズール氏、今の声なに……。何でそんなことになっちゃってるの」
    「し、知りませ、んンッ」
     口を開いた瞬間、かぶりつくように口付けられる。今度はその隙間から舌を入れられ、そのまま僕の口内に侵入してくる。イデアさんの舌が僕の口内でゆっくりとうごめく。それはまるで何かを探すかのように、丁寧に僕の口内をなぞっていく。
    「ん、ン、ぅ……ァ……」
     口内いっぱいにイデアさんを感じ、僕は言葉にならない艶めかしい声を上げ続けてしまう。さっきまではなんとかタイミングよく息継ぎ出来ていたが、今はそれも難しい。体がどろどろに溶けてしまいそうなほど熱を帯び、必死にイデアさんにしがみつく。気持ちよさと息苦しさと不安で訳がわからなくなり、僕は今にも泣き出しそうになってしまう。
    「ぃれ……ぁさ、ン……」
    「わ、ごめん! アズール氏大丈夫!?」
     唇を解放された時には息も絶え絶えで、酸欠のせいか頭もぼんやりしている。イデアさんの心配そうに揺れる瞳を見て、あなたのせいでこうなったんですよ、と心の中で毒づいた。
     まっすぐ座ることもままならず、くたりとイデアさんの首元に顔を埋めると、恐る恐るといった様子でイデアさんは僕を優しく抱きしめる。
    「ごめん……なんだかすごく気持ちよくて、夢中になっちゃった……。苦しかったよね、ごめんね」
     気持ちよかったのは僕も一緒です。本人には言わないけれど。イデアさんは赤子をあやすように僕の背中を撫でる。
    「いろ……」
    「え?」
    「うつりましたか?」
    「え、えーと、待ってね。……うわ」
     そっと肩を抱き、僕の顔を見た瞬間、イデアさんは青ざめる。人の顔を見てうわ、だなんて、あまりにも失礼すぎるのではないか。
    「なんですか」
    「移ってはいるけど……これは絶対に洗って帰った方がいい……」
     そういってイデアさんはいそいそとポケットをあさってスマホを取り出し、内側カメラにして僕に渡す。
    「うわ……」
     思わずイデアさんと同じ反応になる。青色が唇に移るだなんて可愛いものではない。その青は唇の枠を明らかに飛び越えていて、どれだけ激しい口づけを交わしたのかを物語っていた。それを見るだけで先程のイデアさんとの深い口づけを思い出してしまい、胸の奥がズクンと脈打つ。
    「こ、こんなつもりじゃなかったんだけど……ごめんね、アズール氏」
     イデアさんは申し訳なさそうに眉尻を下げ、両腕を胸元に持って行き縮こまる。イデアさんも口づけしている間は無我夢中だったのだろう。僕と同じように。
    「大丈夫です。僕も、その……気持ちよかった、ですから」
     普段の僕ならここで嫌味の一つでも言っていただろうが、今日はそんな気分ではない。かと言って完全に甘えることもできない僕は、おそらく真っ赤になっているであろう顔を隠すために再びイデアさんの首元に顔を埋める。
    「うわ……今日のアズール氏、やば過ぎでしょ」
     ……とか何とか早口でごちゃごちゃ言いながら、イデアさんも再び僕を抱きしめた。

     これで僕の夢は叶ったのか、はたまた未遂に終わったのだろうか。……やはりそれは些細なことか。
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    ojo

    DONE🏹👑
    完成版https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15783576
    👑に匿名でストーカー行為を繰り返すファンに名探偵🏹が牙を剥く話の冒頭(推敲なし)

    全年齢ではありますが👑を性欲の対象としている劣情にまみれたモブが出てくるので閲覧注意です。
     談話室で寮の仕事を手伝ったあと、ヴィルを部屋まで送る。特に頼まれているわけではない、私が勝手にしていることだ。拒否されないところを見ると、ヴィルも受け入れてくれているのだろう。今日もいつものように、部屋にたどり着くまでささやかな談笑を楽しむ。
     ふと見ると、ヴィルの部屋の前に小さな箱が置かれていた。たしかヴィルは家族やマネージャー以外からの荷物や手紙の受け取りを拒否していたはずだ。学園に通っていることが世間に知られている以上、受け入れていればきりがないから。不思議に思い隣を見ると、感情なくその箱を見下ろすヴィルが目に入った。
    「ヴィル?」
    「じゃあここで。おやすみなさい」
     その箱を話題にさせる気はないのだろう、ヴィルは有無を言わさぬといった様子で私に別れの言葉を述べる。気にはなるが、きっと触れられたくないのだろう。こうなってしまっては何も言えまい。私もヴィルに別れの言葉を告げ、自室に向かおうと踵を返す。
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