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    kiri_nori

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    メル燐。概念として腕を掴む話。MDM後~ナイクラ前の時間軸。

    ##メル燐

     ……やっぱりアレは腕を掴まれていたよなァ。
     九月に入ったばかりの頃、燐音は寮のベッドに寝転がりながら自らの腕を眺めていた。頭をよぎっているのは故郷に帰ろうとしていたときに出会ったHiMERUのことだ。
     あの時の会話を燐音は今も一言一句違わずに覚えている自信がある。何せ最後の会話だと思っていたのだ。故郷で君主になって何年経ったとしても忘れてやるものかと意地でも刻み込もうとしていた。だって燐音にとっては初めての相手だったのだ。自分が言いたいことを全て言葉にせずとも、表面に匂わせるだけで裏まで読み取ってくれる相手に出会ったのは。
     故郷でそんな相手なんていなかった。むしろあの場所では燐音だけが異質な思考の持ち主で、次期君主という立場でなければ話を聞いてくれることすらなかっただろう。……聞いてくれるだけで共感も理解も得られたことはなかったけれど。
     HiMERUとの会話はまるでパズルのピースがどんどんハマっていくみたいで気持ちが良かった。一を聞いて十を知るという状況は現実に存在するのだと内心驚いたことも覚えている。
     だからこそ最後に話せて嬉しかったと言ったのは心からの本音だ。もし友達なんて存在に出会えるとしたらHiMERUみたいな相手なのだろう。燐音はそう考えていたから最後になるはずだった会話を刻み込んで故郷に戻ろうと思っていたのだ。故郷で独りになったとしても、都会で好きなやつらがアイドルをやっている事実があるのならそれで生きていけるとも考えていた。……ニキが本気で付いてきたのは割と予想外だったが。

     燐音は自分の片腕を天井に向かって伸ばす。傷も痕もないアイドルの腕である。あの日HiMERUと出会ったとき、燐音は腕を掴まれたと感じたのだ。実際は腕なんて掴まれていない。腕どころか体のどの場所も触られていないし、燐音からも触っていない。それでも間違いなくHiMERUは腕を掴んでいた。
     そして、その腕を離したのもHiMERU自身であった。あの時点で燐音がアイドルになんて戻れるはずがなかったのだから。例え燐音を無理矢理引っ張って連れ戻したとしても、待っているのはただの共倒れである。HiMERUがそれを理解できてしまう相手であることはきっと燐音が誰よりも知っていた。知っていたから腕が離れたタイミングでさっさと故郷に帰ることを決めたのだ。……また腕が伸びてきてしまうかもしれない前に。

     そんなHiMERUが今はどうにかしてソロに戻れないかと画策している。ソロに戻りたいと熱望していることは本人から伝えられたこともあって燐音も正しく理解していた。
     でも、燐音にそれを許すことは出来なかった。燐音は分の悪い賭けをすることはある。賭けに挑戦する自体も普段であれば止めることはないだろう。けれど、こればかりはあまりにも悪い賭けすぎる。HiMERUが本当にソロになってしまえばまともにアイドル活動ができずに消えていくのは想像に難くなかった。そして、それをさせたくないという感情が燐音の中に存在している。
     あの日、HiMERUが掴んでくれた腕の力を燐音は忘れることはない。その感覚が現実には存在しなかったものだとしても、燐音が掴まれたと感じたことは嘘じゃないのだ。それならばひとりでどこかに行こうとしているHiMERUの腕を今度はこっちが掴んだっておかしくはないだろう。
     燐音はそう決意すると勢いをつけてベッドから起き上がった。
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