プール 顔に水をかけられるという行為は撮影中であれば問題なく許容できる。問題があるとすれば、撮影が終わって解散の時間までは好きにプールで遊んでいていいと言われた今のタイミングで天城が思いっきり水をかけてきたことだ。
「…………天城」
「きゃはっ! メルメルってば水も滴るいい男っしょ」
「……HiMERUはいつでもいい男なのです」
髪から落ちてくる水滴が目に入ってしまいかねないため、軽く髪をかきあげる。目の前にいる水をかけてきた張本人を睨んでも天城は笑っていて痛くも痒くもなさそうだ。……睨まれたくらいで自分がやったことを素直に省みるような性格であれば、そもそもこんな行動は取らないだろう。
注意したって聞く相手じゃない。とはいえ、やられっぱなしはどうにも癪に障る。小さく息を吐くとプールの中に手を入れて思いっきり天城の顔に向かって水をかけてやった。やり返してくると思わなかったのか、単に気を抜いていたのか分からないが、水は綺麗に天城の顔に命中した。ぽたぽたと天城の前髪から水が滴り落ちている。少しスッキリした。
「ふふ。天城も水も滴るいい男ですね」
「そんな笑顔で言われても嬉しくねェ~」
「おや、どんな顔ですか」
「やり返せて楽しいって顔」
顔にかかった水を手で拭いながら天城が言う。少しばかり口は尖っているが、目は笑っていた。おまえも楽しそうだな。
「心外ですね。HiMERUはやり返したからといって楽しいなどと言う感情は抱きませんよ。ええ、HiMERUは」
「メルメルが言うならそういうことにしておいてやるかァ」
そういうことにしておいてやる、なんてどうやらHiMERUが言ったことを言葉通りに受け取っていないらしい。わざわざ二回も強調して言えば天城ならすぐに気付くだろうと思っていたが、想像通りに言葉が返ってきてなんだか楽しくなってしまう。これは決して、やり返せたからという理由ではないことにしておく。
不意にキラリと何かが眩しく光った。よく見てみれば何でもない、天城の髪にかかった水が太陽の光を反射しただけだ。今日の天気は快晴と撮影には適していた天候だったがそれも終わった今となってはただの紫外線を振りまくものでしかない。そろそろ日陰にでも移動するべきだろうか。
……天城も、今は元気なようだがいつ暑さにやられるか分からないのだから。
「メルメルさァ……」
「はい?」
「そんな熱烈な視線を送られると俺っちだって照れちまうっしょ!」
これっぽっちも照れていないような顔で言われて、ついため息が出てしまった。こちらが何を考えているかなんて知らないで、本当に世話が焼ける。
「HiMERUはこれ以上紫外線を浴びたくないので日陰に避難します」
「ン? あ~、いってらっしゃい?」
「天城もですよ。あなただってアイドルなのですからせめて日焼け止めを塗り直して水分を補給してください。ほら、速く」
どこか戸惑っている天城に有無を言わさないよう返事をもらう前に手を差し出した。一緒に来るまで引く気はないとの気持ちを込めて天城の目を見れば、半ば諦めたように手を掴んでくる。それに満足して頷くと天城の手を引っ張った。