New game? 画面に映る銃を構えた手。
グラフィックのそれは自分のものとは違うけれど、コントローラーを操作することで思い通りに動かすことができる。
ーーーーガンッ!ガンッ!
迫り来る敵に、スコープを覗く仕草を加えてトリガーを引けば、断末魔を放って倒れて行く。
(ーー右、左……次、前……)
ーーーーガガガガガッ!!
武器を持ち替えて、連射し一掃。最後の敵が倒れると同時に画面の真ん中に《Stage clear》と表示され、はっーーーと、詰めていた息を吐き出した。
「勝てた〜〜」
コントローラーを置いて、ぐっと背伸びをすれば、程よい緊張に凝り固まった肩や首筋がほぐれて気持ち良い。
「スコアは更新したけれど、まだ狙いが甘いなぁ」
リザルト画面で、幾つかクリティカルを取りこぼしていることに落胆しつつ、それでもハイスコアを更新したことは素直に嬉しい。
「ユアムさんのようには行かないか〜〜」
「なにが?」
「ひえっ!?」
ふと、脳裏に浮かべた顔の名前を呟けば、返事が返ってくるとは思っていなかったモランは、危うく椅子から落ちそうになった。
「っと、危ないよ」
半分ずり落ちるような形になったモランを、その鍛えられた腕で難なく抱き留めるのは、銀髪に、切れ長の瞳の目が覚める程のイケメン。
その実態は、特殊部隊『I.DOL』所属のリーダーという凄腕エリートだ。
「ユ、ユアムさん!? ど、どうして……あれ?今日?」
「ふふ、任務が思ったより早く終わってね。早めに休暇に入れたから、連絡したんだけど……モランくん出てくれなかったから」
慌ててスマホを確認すれば、確かにユアムからの着信履歴が残っていた。
「す、すみません!! どうしてもこのマップクリアしておきたくて……」
熱中していたら気がつきませんでした……と、しょんぼり肩を落とすモランに、大丈夫だよ、と微笑んだ。
「モランくんのことだから、そうかなって思ってた。それにしても……あんなことがあったのに平気?」
すっと、画面を指差すユアムの先には敵のゾンビを撃つサバイバルホラーゲームのタイトル画面。
少し前、街中にギャザードと言うウイルスに汚染された人間が、化け物に変わると言う事件が起きた。モランは医療研究機関医『World Reflective Unit』W.R.U社の研究員で、事件に関与していた者たちの手で巻き込まれ、ユアム率いる部隊に助けられたのだ。
たくさんの仲間や人が化け物になり、命を落としていった。
「……そりゃ、自分も死ぬかもしれない……って状態で、怖かったのもあるけれど……でも、こうやって今生きているのはユアムさん達が助けてくれたからだし、平気です!」
「そう……でも、無理はしないで。辛かったら言って欲しい」
「へへ、ユアムさんかっこいいだけじゃなくてめちゃくちゃ優しい……!大好きですっ」
「僕も、モランくんのこと、大好きだよ。大好きだから、いつもそばにいてあげられない分、たくさん可愛がってあげたいんだけれど……」
「……あっ」
頬を撫でるユアムの手のひらが、そっと顔を上げるように固定されると、薄く開いた唇にそっと口付けを落とす。
ペロリと、唇を舐められて、モランの頬がカッと赤く染まる。
「……いいかな?」
眼鏡越しに瞳を覗き込まれ、モランは、こくりと頷いた。