Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    さみぱん

    はじめての二次創作

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🐈 🐱 💖 🎉
    POIPOI 40

    さみぱん

    ☆quiet follow

    とある秋の日の笹塚さんのお話
    11月ホムボあります

    初出:2022.11.6

    ##笹塚創
    #スタオケ

    いろづくまちのおと 気持ちよく揺蕩っていた深い深い音の海から、ゆっくりと意識が覚醒する。
     思い通りの音が紡げた時の、あの感覚。空っぽになった音の泉を覗き込んでいるのに何故か満ち足りている。
     見渡す限りひとつの欠けも綻びも無く整然と並んだ音の粒。それは全てのピースが在るべき位置にぴったりと敷き詰められたジグソーパズルに似ている、といつも思う。
     完璧な音にはまだ遠くても、いまのこの曲としての最高点には間違いない。

     だんだんと身体中の感覚が戻ってくる。
     呼吸の仕方を思い出してひとつ息を吐く。
     最後の音の余韻が消えてしまうのが怖くて目を開けることができない。微かに金木犀の香りを感じて一瞬意識を向けた途端に頭の中で鳴っていた音は消え、すっかり静かになってしまった。
     もうこれで終わりだ。

     ヘッドホンを外すと外界の雑多な音が戻ってきて少し安心する。うっすら聞き覚えのあるこの音は、ここはどこだ。
     またひとつ息を吐いて重い瞼を持ち上げる。視界がぼやけて眼鏡を外したままなのに気付いた。手探りで眼鏡を探り当ててみると、もうすっかり馴染んだ横浜の菩提樹寮の部屋。
     そういえば昨夜こちらへ着いてからずっと仕上げ作業に没頭していたんだった。作曲自体は何時でも何処でも可能とはいえ、じっくり腰を据えて問題なく創作ができる環境があるのは有難い。
     カーテンの隙間から明るい日差しが入ってきている。窓の外は高い空とどこまでも続く巻積雲。
     少し、走りたくなった。


     星奏学院近くの公園へ行き、軽いジョギングとストレッチで凝り固まった肩や背中の筋肉を解した。
     日差しはやわらかでポカポカと温かく、それでいて吹く風はひんやりして心地良い。
     夏の暑さと湿度には辟易したものの横浜の秋は穏やかで過ごしやすい。何も考えずにただ走るにもいいし、考え事をするのにも向いている。
     よく手入れされた芝生の緑はまだ青々としているが、公園の木々はそれぞれ赤や黄色に色づき始め、空の青さとのコントラストがきれいだ。
     見ればもう葉を落とし始めている気の早い木もちらほらとある。
    「枯葉が風に舞う……あの感じ……ああ、一曲できそうだ」
     先刻仕上げたのは春の曲だったから、気分が変わって丁度いいな。
     形や大きさや種類によってひらりくるりと変わる動きから目が離せない。スマホを出すよりその光景を眺めていたくて、浮かんできたフレーズは頭の隅に書き留めることにした。


     どれくらい経っただろうか、頭の中で形を持った音とは違うリズムがするりと入り込んできた。
     さく、さくさく、と落ち葉を踏む音が近づいたり離れたりする。近所の子供が走り回るのとは全然違う、これは落ち葉の音を楽しんでいる。
     目を遣れば案の定、見知ったシルエットが縁石からぴょんと飛び降りるところだった。ざざっと一段と大きな音がして、慌てた顔の朝日奈と目が合った。

     楽器店へ寄った帰り道に、近道しようと公園を通ったら俺を見つけたのだと言う。空を見上げて微動だにしないので何か音を録っているのだと思って声をかけなかったのだとも。それなのに落ち葉を踏む音に夢中になり俺の邪魔をしてしまって申し訳ないと。
     眉を下げる必要なんかないのに。
     先刻のあんたの落ち葉の音こそ録音すればよかった。そう零すとぱっと顔を上げてじゃあ一緒にやりましょうと袖を引っ張られた。

     保存したのは無邪気に楽しむ朝日奈の笑い声ばかりになった。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💖❤💞☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    しんや

    DONE源唯/バレンタインデーのネタ。

    ※リリース前の幻覚。LINEバレンタイン動画の台詞ネタバレ、創作台詞追加、独自解釈、捏造設定↓

    ・両片想い?
    ・やや鈍い天然かもしれない鷲上くん
    ・料理ど下手なりに頑張ったコンミスちゃん
    不器用な二人 二月半ば。最近は冷える日が多かったが、なぜか今日は少し気温が暖かかった。これならば昨日よりは良い音が出せるかもしれないと、俺は淡い期待を抱きながら準備を始めたのだが。
     ――そう、うまくはいかない、か。
     オーボエの音色が響く。管内外の温度差によって、ひびが入ったり割れてしまったりする事を防ぐために、演奏前に充分に温めておいたものの……やはりと言うべきか、望むような良い音は出せなかった。
     寒い季節柄、外で演奏するとどうしても楽器が冷えて音程が下がってしまうのは避けられない事だとは分かっている。ただそんな状況でも、良い音を奏でる方法はあるはずなのに――。
    「……はぁ」
     あまり長引かせるとまた楽器が冷えてしまう。どこかすっきりしない気持ちで一旦、演奏を終えると、ぱちぱちと近くから拍手が聞こえた。音のした方を振り返ると、そこにはコンミスの姿があった。拍手の主もどうやら彼女らしい。
    3941