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    よーでる

    推敲に超時間かかるタチなので即興文でストレス解消してます。
    友人とやってる一次創作もここで載せることにしました。

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    よーでる

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    うっかり初書きのときに花龍の名前を間違えてたので修正しました。ペスタリスノです、ペスタリスノ。ついでに二つ名も改案。星は西の龍のイメージなので。

    ##龍のうたった祭り歌
    #龍のうたった祭り歌
    festivalSongsSungByDragons

    東の輝く森と夜明けの馬について 森の暁/夜明けを灯す菫/花龍ペスタリスノの生まれた輝ける東の森は、現在は木材と衣類で名を馳せています。
     南から流れてくるようになった川が多用な草木を茂らせ、四季のはっきりとした森で育まれた豊かな色彩感覚が様々な染め物を生み出します。南の祭りで舞い手を彩るのは、もっぱら東で縫われた衣装です。
     それに、ご存知ですか? 今の世の中、非道を行えば魔物が生えるので、鉱夫の人権にも配慮が欠かせません。必然金属は貴重になり、そも魔物相手に物理的な防御はあまり意味を成しません。霊的に壊されたら物質もそれに従うのがこの世界を織りなす法則だからね。
     ですから、神官の身を守るのはもっぱら革鎧や布鎧。身を守る法術の紋様を刺繍された軽くて丈夫な衣類は、東部の誉れです。武器を求めるなら北、防具なら東というのは公国では常識です。

     豊かな東の木々は山の地面を支え根に水を蓄えるもの、木材にしやすいまっすぐな幹のもの、見事な色に布を染めるもの、香り豊かな果実を実らせるもの、霊菫になりうる満開の花を咲かせるものと種類も用途も様々ですが、炭の原料としても有名です。
     北の鍛冶に東の高品質な炭は欠かせませんので、自然と行き来は活発になります。北から南に直通するより近いので、東は交易地としても賑わっています。

     さて、もう一つ東地方で有名なものがあります。遡ること、まだ公国が興る前。アデラ公主がまだ公子として人々を率い旅していた頃。
     東の森を後にしたアデラ公子の背を追って、輝くばかりに白い馬が現れました。月の輝く夜空のような瞳に公子を映して、白馬は恭しくこうべを垂れます。

    「匂い立つ林檎よりなお芳しきお方。吹き荒ぶ風よりなお勇ましく、聳える山よりなお偉大なる貴女よ。
     わたくしは【明空】。貴女のしもべになりたく馳せ参じました。どうぞわたくしを貴女の杖、貴女の脚にしてください」

     え? はい。馬が言いました。ええ、珍しいですが、あり得ないことではありません。
     昔、旧い世界で魔法使いが好き勝手に世界を弄っていた頃。獣と人が語らうのを夢見て、そのような領地を作った魔法使いがいました。
     精霊が旧い世界を掬い上げるときに、ほとんどの旧い魔法は解呪されましたが、中には世界と固く結びついていて取りこぼしたものもありました。これもその一つ。
     さすがにすべての動物が人と話せるわけではありませんが、時折極めて賢い獣が生まれ、そうした獣は精霊の力を借りて他の動物と言葉を交わすことができるのです。

     現れた美しき白馬の誘いに、アデラ公子はこう答えました。

    「ごめんなさい。自分で走ったほうが早いから、馬に乗るのはちょっと……」

     風に乗って宙を駆けれる女は言うことが違いました。
     ショックを受けた明空が悲しく嘶きます。

    「そんな! 美しい人間の乙女に乗られるのを夢見て今日まで生きてきたのに……!」

     ええ、犬や猫や馬が大好きな人間がいるように、人間が好きな馬もいるでしょう。この馬もそうだったのです。
     アデラ公子もさすがに気の毒になり、その背を撫でてやって言いました。

    「これからも強く生きてね」

     アデラティアはNoが言える公子でした。馬に背を向けた主君に、配下たちが進言します。

    「あの、殿下、さすがにお断りするのは勿体無いと愚考するのですが」
    「と言っても、荷物持ちをさせるにはオーバースペックでしょう?」
    「そんなことはありません! 貴女様のお荷物なら! わたくしいくらでもお持ちします!!」

     鼻息荒く宣言する明空に、アデラ公子は無慈悲に告げます。

    「わたしの荷物って、民全部なんだけど」
    「……背負いましょう!!」

     こうして、しゃべる馬【明空】はアデラ公子の脚となり荷物持ちとなりました。なんだかんだでアデラ様も乗ることはあったそうですよ。特に公主を引退してからは。
     明空をきっかけに、公国は賢き獣を雇用する制度ができました。代表的なのが馬ですね。言葉を交わせるだけでなく巫術も使える馬は、特に交易が盛んな東部で需要が高く、いつしか賢き馬は【東馬(しののめ)】と呼ばれるようになりました。
     多くの人は東部でよく飼育されるからだと思っていますが、実際には違います。夜明けを名乗り、最期までアデラティアに付き従ったあの馬を偲んで、東雲(しののめ)と。今では神官の雑学ですけどね。

     え? ペスタリスノはどうなったかって? 深く暗い森の奥で密やかに揺蕩う輝きの龍、人に森を切り開かれ儚く消え去ろうとしていたあの龍は?
     彼女は、人々の心の中で生きています。いえ本当に。比喩ではなく。龍は精霊の心から生まれたゆらぎの生き物ですから。物理次元の体が壊れても、人の信仰を接点に存在が継続することがあるんですよ。
     水龍ネプルディルなんかもそうですね。信仰が絶えれば消えゆく不安定な存在ではありますが、この調子なら公国が滅びるまでは大丈夫じゃないかな。霊菫がそこかしこに咲いて、花龍への信仰は強まるばかりだから。
     これが公国東方、花と木々と馬の土地。ペスタリスノはあなたの心の奥で、光る花弁を揺らしてそっと微笑んでいます。
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    よーでる

    PROGRESS完!! うおおお、十数年間ずっと頭の中にあったのでスッキリしたぁ。
    こういうカイムとマナが見たかったなー!!という妄執でした。あとどうしてカイムの最期解釈。
    またちょっと推敲してぷらいべったーにでもまとめます。
    罪の終わり、贖いの果て(7) 自分を呼ぶ声に揺すられ、マナはいっとき、目を覚ました。ほんのいっとき。
     すぐにまた目を閉ざして、うずくまる。だが呼ぶ声は絶えてくれない。求める声が離れてくれない。

    (やめて。起こさないで。眠らせていて。誰なの? あなたは)

     呼び声は聞き覚えがある気がしたが、マナは思い出すのをやめた。思い出したくない。考えたくない。これ以上、何もかも。だって、カイムは死んだのだから。
     結局思考はそこに行き着き、マナは顔を覆った。心のなかで、幼子のように身を丸める。耳を覆う。思考を塞ぐ。考えたくない。思い出したくない。思い出したく、なかった。

     わからない。カイムがどうしてわたしを許してくれたのか。考えたくない。どうしてカイムがわたしに優しくしてくれたのか。知りたくない。わたしのしたことが、どれだけ彼を傷つけ、蝕んだのか。取り返しがつかない。償いようがない。だって、カイムは、死んでしまったのだから。
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