月は雲に隠れつつ、光る 夜、寝る前に何となくベランダに出て外を見上げる。空は厚い雲に覆われており、相変わらず星も何も見えない空だった。琥珀は夜風にあたりつつベランダの手すりに肘をついて空を見る。ふと、いつの間にか隣にサクリがおり、少し離れて空を見上げていた。たまに夜に侵入してくる輩がいるためなのだろう、なんて思いつつ琥珀は考え事をした。
さて、考え事というのは、どうも自分とサクリがバディを組んでいることに対して心配の意味であれこれと言われるのが多いのだ。主に言われているのは自分の隣にいるサクリなのだが、その度にサクリは相手をどこかへ転送している、それもまた琥珀が悩んでいるひとつだ。
皆が心配する気持ちはわかる、しかも自分の作品のニジゲンがついこの前顕現したのだ。なのだが、ニジゲンがいても琥珀はサクリとの臨時を解かなかった。琥珀は黙ったままサクリを見る。
なぜサクリをそこまで信用するのか、信頼するのか、バディを組んでいるのか、耳にタコが出来るほど聞かれた事のある質問だ。琥珀からしたら、自分にとって信頼に値するニジゲン、それがサクリだったとしか答えられない。
決してだが、顕現したばかりのニジゲンを信用していないだとか、そういった意味ではない。もちろん、自分の作品からやっと来てくれたニジゲンなのだ。嬉しかったし、没討伐の時は頼りになる。
ただ、サクリと何度か場の流れで討伐する事が何度かあって、話をして、それらがあって。考えて考えて、考えた末の覚悟でサクリと組もうと決めたのだ。
そして自分の言葉に最終的に組むと言ったサクリに対して、自分は何ができるか。それはずっとこれからも、サクリを信じ続け、この距離感を保つことだろう。
ふと、空を見ていたサクリがこちらを横目で見た。何か言うわけでもなく、ただ琥珀を見る。丁度その時、雲の隙間から月が見え、月の光がサクリを少しだけ照らした。特に強い光という訳でもなく、淡い光がサクリを照らす。どこか幻想的だ、なんて琥珀は遠く思った、サクリにはやはり月明かりが良く似合う。
ところで、何か言いたいことがあるのだろうか、と思った矢先にサクリは影に入ると、そのまま消えてしまった。何も言わずに立ち去ったサクリに対して影をじっと見る。少しして夜風に当たりすぎたのか、少し身体が冷えた気がして琥珀はそのままベランダから部屋の中に入った。