リヒトは街中で琥珀の頼まれていた用事をすませて帰り道を歩いていた、この世界に来てまだ日は浅いが、琥珀が少しでもリヒトが慣れるようにと、こうして簡単なお使いに似た用事を頼むのだ。今日も無事に終わらせて安心していたリヒトはそのまま歩いていたが、うっかりと手を滑らせて物を落としてしまった。リヒトは慌てて拾おうとしたが、その前に誰かが拾ってリヒトに渡してきた。
「落としましたよ」
「あ……あ、ありがとうございます……」
リヒトはそのまま相手の顔を見た、相手は白髪に眼鏡をかけて人当たりの良さそうな……いや、胡散臭い笑顔をうかべており、白衣を着ていることからか医者なのだろうか、とリヒトは思った時、琥珀の言葉を思い出していた。確かなるべく会わないようにしてくれ、ととある人物の見た目と名前を教えてくれた。そう言えば目の前の相手と特徴は一致している、確か名前は……──。
「……みかみ……さん?」
「……おや? なんで俺の名前を知ってるんです?」
「ひっ……」
相変わらず相手はにこにことリヒトに向けて笑顔をむけているが、なぜか全身を悪寒が走り思わず後退りをしてしまう。相手はゆっくりとリヒトに近づき話す。
「巳神、で合ってますよ。で、なんで俺の名前知ってたんです? 会ったことないはずですよねぇ?」
「あ、あの、えと……こ、琥珀さんが……その……」
「おや、彼と知り合い……もしかしてニジゲンですか、貴方」
「は、はい……」
そう言った時、どこか相手が嬉しそうに口角をあげた気がするが、リヒトはそれどころではなく怖がっていたが、巳神はリヒトの手を取り握手をし始めた。突然握手をされてリヒトは大袈裟に、と言わんばかりに体を跳ねた。
「あ、あのっ……!? なんで握手…….!?」
「おや? 挨拶は握手から、でしょう?」
「……た、確かに……」
リヒトはよく知っている自分の相棒──フレイもよく相手と握手をしていた。それを知っているリヒトからしたら、巳神の言ってる事ももっともだ、と思い始めた。ただ、やたら握ってくる手に力が入っていたり、自分をじっと見てくる以外には。まるで頭の先から足の爪先まで見てくる視線に耐えきれなかったリヒトは口を開いた。
「あ、あの……もう僕行かないと……」
「おや、それはすみません。また会いましょう」
「えっ……あ、は、はい」
正直に言うとあまり会いたくない、と失礼を承知にそう思ってしまったが、巳神はそのまま手を離すと立ち去った。相手の後ろ姿を見つつ、ゆっくりと息を吐いた。
「こ、怖かった……」
早く帰らないと琥珀が心配しているかもしれない、リヒトはそのまま小走りでその場を立ち去った。