青と緑に馴染む赤は 水族館を見て回っているうちにあっという間に夕方になっていた。夕方だからか、昼間のような人の賑わいも落ち着き、ぽつぽつ、と人が疎らにと歩いていた。このようなどこか物静かな水族館もいいかもしれない、なんて琥珀は思っていた。
この水族館には展望スペースがあると聞いた、海に近いところにあるからか、外にも海を利用した魚を閲覧出来る水槽があり、そこから少し歩くと海が一望できる展望スペースがあるのだ。最後にそこに行こう、と鈴鹿とそう話して歩く。外に出る通路を歩き、外に出る。ふわり、と潮の香りがした。そして木で出来た道を歩くと、聞いていたとおり、海を一望できた。夕焼けが綺麗に海を染める。
「綺麗だな」
琥珀が笑って鈴鹿に言う。鈴鹿も綺麗と思ったからか、琥珀の問いかけに答えた後、海を見ながら呟く。
「……なぁ、琥珀」
「……なに?」
「……昼間の話だけど」
昼間の話、それを聞いて琥珀はあの話か、とすぐに分かった。琥珀にとって青はなにか、という問いかけだった。琥珀の答えは、欠けてはならない色だと答えた。それがなんだろうか、と見ていると鈴鹿が琥珀を優しく見つめた。潮の風が二人を優しく撫でるように吹く。
「俺は、青と緑に馴染む赤は、すごく綺麗だと思う」
「……赤……」
恐らく自分の目の色のことを言っているのだろうか、と目を伏せる。自分は綺麗など思ったことがなかった。小さい頃から母親に虐待まがいなことをされていた自分、傷だらけの自分、眩しい親友と比べて、くすんでいるように感じている自分。
自分の目が綺麗だと、欲しいと言っているニジゲンは居た。そのニジゲンとは、自分の死後、目を渡すことを約束していた。目しか、綺麗と言えるものがないんじゃないか、ともすら思っていた。
黙り込んでしまった琥珀に対し、鈴鹿は琥珀の両肩を掴む。琥珀が突然の事で思わず鈴鹿を見た時、鈴鹿の真剣な顔に、じっと見つめるしか出来なかった。
「どんな宝石や世界中の宝を並べても、琥珀がもつ心の綺麗さや強さには劣る。俺は、見た目よりも、意思が強くて、真っ直ぐで、何事にも諦めなかった琥珀の事が好きになったんだ」
「……え、あ……」
突然の告白に琥珀は顔を思わず赤らめてしまった、嬉しい、という気持ちと、恥ずかしい、と鈴鹿と過ごすようになって強くなった幸せという気持ちが混ざっていた。琥珀はぼそぼそ、と口をなんとか開く。
「それ、その、口説きにきこえ、るから」
「……口説かせて、何十年でも」
そっと琥珀の頬を撫でて笑う鈴鹿。その優しい顔をした鈴鹿に対し、頬を撫でていた手にそっと自分の手を重ねた。
「……たった何十年でいいのか?」
そう笑って答えた。先程照れてしまったお返しだ、と言わんばかりに言うと、鈴鹿は少しだけ面食らった後、琥珀の手を握り出す。
「……なら来世も、その先も」
「……俺の事、見つけてくれるんだな」
「何度でも、約束する」
鈴鹿の言葉に泣きそうになった。鈴鹿の言葉は真っ直ぐだ、嘘など未然も感じられない。先程鈴鹿は、意思が強く真っ直ぐな自分が好きになったと言っていた。琥珀もまた、自分の信じる道へ進んでいる鈴鹿の事が好きなのだ。誰か人を好きになるなど、過去の自分が知ったら驚きそうだ。視界が滲む、どうやら涙ぐんでいるらしい、鈴鹿がそっと指で琥珀の目尻を優しく拭った。
鈴鹿なら、自分たちが死んで何度生まれ変わって、お互いに前世の記憶など覚えてなくても、必ず自分のことを見つけてくれて、こうして隣にいてくれる。そう信じてやまないのだ。
琥珀は涙を溜めた目を優しく細め、微笑んで口を開く。
「……俺も、俺も鈴鹿のこと必ず見つける。約束する」
「ならどっちがお互い見つけるか競走だな」
「なんだよそれ」
お互いに顔を見合わせて笑った。笑った後、鈴鹿がそっと琥珀の唇を指で優しく撫でる。今から鈴鹿がしたいことが分かった琥珀は思わず周りを見る、周りには琥珀と鈴鹿以外誰もいないようにみえた。また顔を赤くしてしまった琥珀を見て笑う鈴鹿。
「キス、何度もしてるのにいつも照れるんだな」
「誰だって照れるだろ……。……好きな人の顔が近いって思うと恥ずかしいし……」
「……可愛い」
そう呟いた鈴鹿の顔が近くなる、琥珀はそっと目を閉じて優しく唇を重ねた。ちゅ、と優しく二人の間で聞こえた後、そっと唇が離れていく。琥珀は外でしたのが相当恥ずかしかったのか、思わず口元を手で隠していた。その様子が可愛らしかったのか、鈴鹿は嬉しそうに琥珀を抱きしめる。琥珀も、おそるおそる鈴鹿の背中にそっと、手を回した。
夕焼けは赤く二人を染める。