「この森ほんと広いな!」
「一日じゃ流石に回りきれませんよ 」
まだ夕食まで時間がある、ということで、探索を続行しているレイフとダミア。レイフ自身、この森を案内するのは数十年ぶりであったが、あまり森の中の様子は変わらなかった。森の中を歩くと、ふと、ダミアの耳がかすかに動いた。
「ん? なんか音した」
さすが獣人と言っていいのか、ダミアの元の種族の耳がいいからか、微かな音でもダミアは音を拾い、目線をそちらに向ける。すると、そこに居たのは小さなリスだった。
「おや……ウッカリスじゃないですか、珍しい……」
「……なんだっけ、そのリス」
「あー……。最近見ることないですもんね」
そう言って、レイフはウッカリスを見ながら説明する。
「ウッカリスの名前の由来は、『とてもうっかりして、ぼんやりしているリス』から来てます」
「まじ?」
「マジですよ、ほら、見てください」
そう言って、レイフとダミアはリスをよくよく見ていた。リスはなにかしら、木の実を持っていた。すると、徐にぼぅ、とリスが空を見出す。その間に木の実はポロポロと落ちているのだが、何故かリスはその様子に気づかずに、また木の実を探し始めた。
「……うっかりしすぎだろ」
「いい事もありますよ、あのリスが落とした木の実から芽が出て、いずれ森となるので。まぁ……あの様子なので、実は絶滅危惧種なんですよ。天敵が多いんです」
「へぇー……」
そう、ただでさえあのうっかりさだ。レイフが産まれる前までは、そこら辺にウッカリスが居たのだが、人口増加、それに伴い、自然も徐々に減っており、そして凶悪なモンスターと来たものだ。寒さにも、暑さにも強いウッカリスなのだが、いつの間にか数を減らし続け、今では絶滅危惧種とまでなってしまっていた。
「しかも……しっぽ、特徴的だと思いませんか?」
「……そういや、なんか変なツノ?みたいなの生えてるな」
「しっぽごと、漢方になるんですよ。それで乱獲された、ってのもあります」
「へぇー……あ、そういや、なんか変な干物あったの見た事あるかも。似てるな、そのシッポに」
「規定されたはずなんですけど……。出回ってるんですね……おそらく合ってるかと」
そう話しているうちに、いつの間にかウッカリスはどこかへと行っていた。この森なら住処も食べ物も多い、少しずつ数が増えていけばいいが、と思っていると、少し空が暗くなっていることに気づいた。
「ダミア、そろそろ屋敷に戻りましょう。恐らく、今日はパーティになってます。ダミアのスーツとか既に用意されてるかも……」
「……まじ?」
これが貴族……と呟いたダミアを見て、レイフは笑ってしまった。