その後、サングリア仕事終わりにクザンに連れてきてもらったのは、いつも行ってるような薄いエールと傷だらけの小汚いカウンターの酒屋ではなく、ウィスキーが何種類も並び、マホガニーの深い赤色が美しいカウンターのショットバーだった。
一杯目を飲み干して、次を考えあぐねていると、マスターに珍しいワインを勧められたがスモーカーはどうしても飲めないと断ってしまった。
「へぇ、お前ワイン飲めないの」
「悪酔いしちまうんですよ」
代わりに頼んだモヒートのミントをグルグル回しながら隣を見れば、ワイングラスを傾ける仕草はとても様になっていて、ぐぅと変な声が出る。上がってく体温に言い訳をしたくて大きく角度をつけてグラスを煽った。
「なんで俺なんか誘ったんですか?」
「んー?たまには可愛い部下と飲みたいじゃない」
「はぁ。俺なんかと飲んでも楽しくはないでしょうがね」
「いやいや、こうやってお前の可愛いところも見れたんだし俺は楽しいよ」
「そういうのはもっと別の人のために取っとくべきでは」
「お前にしか言わないよ。こんなこと」
クザンは普段から冗談めいたことを言っているけれど、時々本当にそう思っているような顔をする。だからきっと他の人も彼のこういうところに惹かれてしまう。言うなればタチの悪い勘違い製造機。いつまでたっても女の影がチラつくのは、女のせいではなくこいつのせいだ。
「その顔は信じてないな」
「いえいえ。上司の言うことを信じない部下はいないでしょう」
「野犬が何言ってんだか」
控えめに笑うクザンの横顔を見ながらスモーカーはため息をつく。この人と飲むとついついペースが早くなっていけない。モヒートも氷とミントを残して無くなってしまった。次は何を頼もうか。どうせこの人の奢りなんだし、いつもは飲めないような高い酒でも注文してしまおうか。ぼんやりとボトルが並んだ棚を見下ろしていると、クザンがマスターを呼び止める。
「こいつにさ、さっきのワインとジンジャーエール混ぜたのを飲ませてやってよ。辛口のやつ」
「かしこまりました」
なに勝手に頼んでやがる。という目で見てると、ニヤリと口角をあげた。
「ねえ知ってる? このカクテルの名前」
「ワインは飲まないって言いましたよね」
クザンの顔がグッと近づいて耳に息が当たる。
「ヒント。ベッドの上のスモーカー」
バッと体を大きく引いて遠ざかった。酒のせいにできないくらい顔が赤くなっている気がする。
「ねェマスター。そのカクテル、なんて名前なんだっけ」
「キティでございます」
「ほら、ピッタリでしょ」
斜め下から除くような角度。ほんと、こういうところが、ほんとに、ずるい。