お題「桜」(3/18のお題) 「薄桜」月が雲の合間から覗く夜のこと。ローはスモーカーの愛車に跨ってささやかなデートを楽しんでいた。ロー専用になったヘルメットを被って、インカムを繋げて、仕事の話や夕食の話、昨日見たテレビの話をしながらお互いの体温を感じる。
「そういえば、明日からしばらく雨らしい」
困り顔のアナウンサーを思い出した。雨に伴い、また寒波がやってくるという。しばらくは気温差と気圧との戦いになるかもしれない。
「週末は?」
「雨。花見はキャンセルだな」
「バイクのメンテでもするか」
「車出して映画見に行くってのは?」
「メンテ終わったらな」
いつも通りの会話に、少しだけ甘さを加えたような会話が続く。それが心地よくて仕方ない。
「雨で桜が散る前に見とかねェか?」
「酒が飲めないから却下」
「おれが押してやるよ。右曲がれって」
「お前に預けるくらいなら自分で押して帰る」
バイクが右に傾き、コンビニの駐車場に入る。メットを外して、ここから近い公園はどこか話し合う。買い物かごの中に酒や菓子が積まれ、期間限定の桜餅や三色団子を放り込んでく。
「いい感じの桜並木があっただろ?あそこ通った先に小さい公園があったはずだ」
「わからん。案内頼んだ」
会計を済ませ、またバイクに跨る。
「どっちだ?」
「左だ」
そうは言ったもののローも記憶があやふやだった。辿り着けるか怪しいところだが、花見なんてのはこの時間を長引かせるための口実にすぎないのだ。
「これ右か?」
「ん? ああ」
「てめェ道知らねぇだろ。右は行き止まりだ」
思ったよりも早くバレた。スマホで検索をかけようにも公園の名前なんか知るはずもなく、適当な場所を目的地にして道案内を再開する。行先不明のデートはまだまだ続きそうだ。