夏の間の放牧から町へ戻り、預かっていた羊をそれぞれの家へ返し終えた。今年も無事に仕事を終えられたことに安堵したレノックスは、箒に乗り、フィガロの診療所を目指していた。毎年、羊飼いの仕事が一段落すると顔を出すようにしている。「もっと遊びに来てくれてもいいのに」とフィガロは言っているが、フィガロはよく往診のために南の国を飛び回っているので、そのついでにレノックスを訪ねてくることの方が多かった。
大きな湖を超えれば、白い外壁の、少し可愛らしい雰囲気のあるフィガロの診療所が見える。まだ時刻は昼過ぎで、屋根の上からでも日に照らされたその人がよく見えた。
フィガロはレノックスに気が付くと、ひらひらと手を振って笑顔を見せた。そして、すぐ側にいた子供に声をかける。2人の子供はぱっと上を見上げ、驚いた顔を見せた後、すぐに大きく手を振ってくれた。
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