2色だよー「――おおっと北村、大変だ」
ライブ前の時間はたっぷりとある。三人分のヘアメイクを終えたスタイリストは楽屋から退室しており、スタンバイまでの時間を各々が気ままに過ごしていたが、葛之葉雨彦の声が沈黙を打ち破った。
「……何かなー?」
平素の雨彦と比べて妙に明るい声、切れ長の目に浮かぶ愉快そうな色。大した用でもないと踏んで応える想楽はにこりと微笑んでみせれば、雨彦は大げさに肩をすくめて自身の耳元を指す。
「髪が汚れているぜ。真っ白な髪が台無しだ」
「…………。雨彦さーん」
もはや雨彦はにやにや笑いを隠そうともしていない。
「化け狐、緊張もなく楽しそうー。――余裕そうだね、雨彦さんー?」
「まあな――せっかくの機会だ、楽しもうじゃないか」
声には期待が滲む。
光へ向けて、三人は歩きだした。