Twi************「ん〜?」
「雛菜、どうした?」
「先月、雛菜たちTwitterやったでしょ〜?」
俺に聞き返す雛菜はソファの上でだらりと体を伸ばしている。脚の間に挟んだクッションをつぶしながら、雛菜は俺に端末の画面を向ける。
「見返してたら、よくわかんないリプライついてた〜!」
「……?」
ノクチルに283プロ公式Twitterのアカウントを使わせたのは先月、八月の終わりのこと。予想通りほとんど雛菜がツイートを担当したあの施策はおおむね好評だったとはづきさんや社長には報告を上げている。俺自身リプライの全てを見たわけではなく、もしかすると批判的な意見もあったかもしれないが、雛菜はその手のリプライへの対応もうまい。そんな雛菜から見て『よくわかんない』リプライとはどういうことだろう――見ていいか、と雛菜の許可を取ってから、俺は雛菜のスマホを覗き込んだ。
雛菜が表示しているツイートは、去年、花火大会の会場で仕事をした時のオフショットだ。星空と海とメンバーの後ろ姿、当然ながら『燃える』ようなネタはひとつも写っていない。
あの頃のノクチルは今より知名度が高くなかったから『行きたかった!』『デビューしたばっかりの頃?こんなのあったんだ』などのリプライが連なる。
そんな中に、
『天塵イベまじいいわぁ』
『こっち見ろーのボイスめっちゃ好き 和久井さんが透なの天才としか言えない』
『MDこれの再現だったの思い出して泣いちゃった』
――――あ、
「雛菜、」
「ん〜?」
雛菜がソファから起き上がる。
起き上がったばかりなのに寝癖も服の皺もひとつもない。やは、と呟いた雛菜が口許で手を開いて、自席に座る俺の前に立って、にっこり笑う。
「雛菜、」
つるりとした肌。つるりとした髪。塗り込められた絵がなめらかに動き出して、俺の顎からは汗が机に落ちる。
その机は、プロデューサーの机ではなくて、俺の。
俺の生活が乗っかった机で、
『雛菜、できると思う〜?』
シーズン1、残り8週の雛菜が画面の向こうで笑って、
俺は。
「雛菜、」
何回も。
「雛菜、」
呼んで。
『雛菜、ソファにごろ〜んてしていい?』
「雛菜、」
でも。
「――」
画面の向こうで、雛菜は笑うだけで返事はしてくれなかった。