TWO HOT　真っ赤なパッケージに踊る激辛の文字。
「〜〜♪」
　スマホのタイマーが響く直前にオフにした伊勢谷四季がカップラーメンの蓋を勢いよくめくると、上記とともに真っ赤なスープが視界に飛び込んでくる。思わずにやける四季を、芹沢あさひは間近で凝視していた。
「…………」
「……あさひっち、どうしたっすか？」
「それ、美味しいっすか？」
　とある番組のミニドラマの撮影の休憩中、ちょっとした空腹に四季は持ち込んだカップラーメンを食べようとしていたのだが……あさひは真っ赤な油膜を見つめながら、四季にそう尋ねた。
「ハイパーメガマックス美味しいっすよ！　あさひっちも食べるっすか？」
「いらないっす」
「あ、そうすか……」
　即答での拒否にちょっぴり肩を落としつつ、真っ赤な麺をすすりはじめる四季。
「冬優子ちゃんなら食べるかもしれないっすけど」
「？　冬優子ちゃんって、ストレイの冬優子ちゃんっすか？」
　麺を噛みつつ、四季は頭の中で『冬優子ちゃん』の姿を組み立てる。
　あさひと同じユニット・ストレイライトのリーダーである黛冬優子。甘い私服に甘い笑顔に甘い声、雑誌のインタビューか何かではお気に入りのスイーツについて語っていたようなーー気がしたが。
「ふゆっちは辛いものが好きなんすか？」
「美味しいものならなんでも好きっす。唐揚げとかトンカツとか……きっと蕎麦も好きっすよ、美味しいから！」
「……蕎麦、っすか……？」
　どこから蕎麦が出てきたのかと四季は首を傾げるが、あさひの視線はすでに四季を離れ、カメラマンへ向けられている。
「そのカメラ！　どうやって使うっすかー！？」
　遠ざかるあさひを見送りつつ、四季はカップラーメンをすする。あさひの姿が完全に見えなくなり、カップラーメンを食べ終える頃に秋山隼人からLINKが届いた。
『あさひちゃんとの現場、どう？　後で感想教えて！』
（あさひっちは辛いものはそんなに好きじゃなくて、ふゆっちは辛いものが好きで、唐揚げとかトンカツも好きで……）
　そこまで思い巡らせてから、四季はくまっちのスタンプをひとつ送る。
　既読はすぐについた。同時に「伊勢谷さん！」とスタッフの呼び声が四季に届く。
「お待たせしました！　伊勢谷さんと芹沢さん、スタンバイお願いします！」
「はいっすー！」
「はーいっす！」
　口々に言って、四季とあさひはカメラの前に飛び出す。
　まばゆいライトの下では、二人の笑顔が輝いていた。