【クリ想】私達のbaiser バレンタインが終わるまではと逢瀬をしばらく我慢していたから、久しぶりのオフにクリスを自宅へ招いた想楽は待ちきれずにクリスの膝に乗った。
「――想楽……」
向き合う形で想楽はクリスを見下ろす。欲望を隠そうともしない瞳がクリスに向けられ、ずいと顔が寄る。目を開けたままクリスは想楽の唇を受け入れようとするが、すんでのところで想楽の顔が止まる。
「…………、っ」
破裂するように息が漏れる。
「……想楽?」
想楽の唇がくにゃりと曲がったかと思えば喉奥から笑いがこみあげる。ごめん、と告げる想楽は困惑を浮かべ、クリスに顔を寄せたまま言い訳を始めた。
「――最近、仕事が色々入ってたから」
暖房を点けることすら忘れて抱き合ったせいで部屋は冷え切っていた。遅まきながらそう気付いて想楽はエアコンのリモコンに手を伸ばし、無機質な起動音を立ててから続きを述べる。
「役とか表情の感じ、混ざっちゃって――」
「、」
声優として関わった恋愛シミュレーションゲームの収録は、ワード数の多さもあってかなりの時間を要した。想楽は同い年の二人との共演ともあって張り切っており、練習にも力を入れていたはず――既にあの仕事は想楽の手を離れてはいたが、それでも時間をかけた役柄はまだ抜けきっていないのだろう。
「…………僕って、どんな顔でクリスさんとキスするんだったかなー、なんてねー」
はにかむ顔は、想楽の微笑みそのもの。
「、想楽」
首を伸ばして想楽に迫れば、想楽の声、想楽の微笑を持つ唇に触れ合えた。
「……急すぎないー?」
「想楽が、キスをする時の顔をしていましたから」
「え――」
言いかけたところにもう一度、唇を重ねた。
今度はなかなか離さなかった。想楽の瞳に重なる驚きの色が少しずつ溶けて、内側から安心が滲み出る。緩慢なグラデーションを見届けて、二人は静かに目を閉じる。
久しぶりの口づけは、何よりも甘く感じられた。