花園百々人/ヒーーーンつらい :職場でオタバレして苦しむ話 私は職場でオタバレしないように日々頑張っているけども、今日はちょっと気を抜いていた。
「お菓子? 珍しいのね」
昼休みを終えて戻ってきた私が提げていたビニール袋がクランキーの箱を透かしていたのを見て、通りがかった上司に言われた。デスクでお菓子をつまむことは許されている職場で、上司の声にも咎める色はない。
「食べますか? 私ちょっと食べきれないかもしれなくて」
「どうして買ったの」
「あっ」
やっべ。
「えっと……」
何となく、みたいな言い訳が浮かんだのに口は別に動いた。
「好きなアイドルがキャンペーンやってて、お菓子を買うとステッカーがついてくるから買いました」
社会人として上司にはどんなことでも正直に報告すべし――入社してから何度も繰り返し教わってきた通りに私の口は本当のことを言っていた。
こんなこと、言いたくなかったのに!
「ふうん」
上司はクランキーの箱を受け取って気のない返事をする。そうですよね、部下がドルオタとか興味ないですよね、だから私も言いたくなかったんですよ。
やっぱり昼休みのうちはガマンして、帰りにコンビニを回るべきだった。でも私の推しがいるC.FIRSTは人気のユニットだし、帰りまで待ったせいでステッカーが全滅していたら悔しくてならない。朝は出社が早すぎてまだコンビニには陳列されていなかったし、最速で推しを手に入れたい気持ちは間違ってはいないけど同時に自分の迂闊さが呪わしい。
「なんて子たちなの?」
「C.FIRSTです」
ああああああああああああああああ!!!!
「ああ、聞いたことがあるわね」
雑談の一環で推しが消費されることが許せなくて頭の中でのたうち回りながら、私はじりっと後ずさる。推しを聞かれたらどうしよう。百々人推しだけど隠したい。でも推し隠しで推しってことにしたら秀くんにも鋭心くんにも失礼だ。どうしたらいい?
「あまりアイドル興味ない感じですかー?」
こうなったら先制攻撃で話題をずらすしかない。へらっと笑って訊いてみても、上司は特に表情を崩さずに答える。
「そうね、あまり興味がなくて。……アイドルって、結局特に才能がない人の集まりだと思っているから」
うおおおおおお。
違う、違うんですよ。上司はアイドル全体に興味がないだけで、私の推しをことさらに腐しているわけじゃない。だからいいんだけど、しょうがないんだけど、けど!
「そういえば、ミーティングがリスケになったの。来週の火曜日だから、よろしくね」
「はい!」
苦悶は内側に押し込めて返事をして、上司はその場を去った。
時計を見れば昼休みは残り僅かだ。こんなことに体力と精神力を使って、果たして私は午後を乗り切れるのだろうか。
アイドル趣味を受け入れてもらえないことなんてこれまで生きてきて何度もあった。ここまでダメージを受けることでもないのに今回はダメージが高かったのは、私が上司をまっとうに尊敬していたからかもしれない。
あとは、上司と推しの苗字って同じだし。
…………とにかく疲れた。帰りは推しのソロのリトルハピネスでも聴こう。