Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    endoumemoP

    @endoumemoP

    @endoumemoP

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍝 🍙 🍓 🍣
    POIPOI 122

    endoumemoP

    ☆quiet follow

    緋田美琴/真相/勝ち負けにこだわる美琴のクラスメイトの話

    緋田美琴/真相/勝ち負けにこだわる美琴のクラスメイトの話「女子ー、暑いんだか寒いんだかハッキリしなさい」
     体育教師の言葉を無視して、私は隣の美紅と笑い合う。
    「着るなら長袖か半袖どっちかだけ」
     意味の分からないルールだけど、ジャージはそういうことになっていた。長そで長ズボンか、半そでハーパンのどっちか。しかもジャージのチャックは上まで閉めなきゃダメってことになっていて、先生の言う正しい着方は絶望的にダサくて敗北のにおいがする。
     一番イイのは、上は長そでで下はハーパン――もっと言うと、長ズボンを膝くらいで切ったものをハーパンとして履くことだ。自分の長ズボンを切ると長ズボンがなくなっちゃうから、卒業した先輩から長ズボンをもらって、それを切るのが最高。そして私は勝者なので、先輩であり彼氏でもあるスバルの長ズボンを膝あたりで切って履いている。
    「緋田さんを見習いなさい」
     話を聞くふりもしない私たちに焦れたように先生が言う。
     緋田さん、緋田美琴。みょーに背が高いその人は、長そで長ズボンのうえにジャージのチャックを上まで上げていた。
    「……」
     先生に何か言われたら友達と笑えばいいのに、緋田美琴は何も言わずにぼうっと前を見ている。部活もやっていなければ彼氏の気配もない彼女は割と謎の人間で、私と同じ勝者ではないにせよ敗者とも言い切れないところが難しい。
    「……」
     顔がこっちを向く気がしたから私はあわてて目をそらす。勝者じゃない人と目を合わせるのは、あまり好きではなかった。


     内地より短い夏休みが終わると勝敗の入れ替えが行われる。
     戸田は補導されたから負け、美紅は彼氏と別れたけど三つ上の人と付き合い始めたから勝ちキープ、あべべは彼女ができたから勝ち、私は処女を捨てたからもっと勝ちになって、緋田美琴の席はなくなっていた。
    「は? なんで?」
     美紅に聞くけど美紅も知らないらしい。彼女がいなくなったことにざわざわしている人は他にもいて、東京でモデルになるとかアイドルになるとか噂がいくつか流れた。どうあれ「東京に行った」「芸能人になる」ってところは共通していたから、少なくともそこは真実らしい。
    「やば」
     噂を聞いて真っ先に、負けだ、と思った。
     もちろん私のじゃない。緋田美琴の負けだ。
     ジャージのチャックを上まできっちり上げた姿を思い出す。あのくそ真面目な服装、何を考えているかも不明な緋田美琴が、芸能人? 同い年くらいの芸能人をテレビで見るたびに「私の方が良いと思うんだけどね」と言い出す美紅ならまだしも、あの緋田美琴が芸能界への憧れを抱いている様子なんていっさい見たこともない。そんなヤバい奴だったとは、まったく思いもしなかった。
     緋田美琴がいなくなったクラスでは彼女の行く末が自由に描かれた。夢破れて高校くらいでしれっと私達に合流するんじゃないかとか、そういうこと。芸能人の誰かしらが不祥事を起こすたびに緋田美琴の身に同じことが降りかかる空想をしたけど、麻薬も不倫も事故もあまりしっくりこなかった。
     噂をしていた時間はそこまで長くなかったと思う。短い夏が終わって長い冬が来る前にあった持ち物検査で、私のカバンの中からゴムが見つかって大騒動になると緋田美琴の話題は聞こえなくなった。


     緋田美琴の顔を次に見た時、斑鳩ルカが隣にいた。
     テレビで二人は歌って踊っている。斑鳩ルカは知っていて、二人のユニット名も知っていた。まさかメンバーに緋田美琴がいるとは思わなかったから私は驚いて、美紅に久々に電話をかけていた。
    「すごくない?」
     高校を卒業したとこまでは連絡を取り合っていたけど、美紅の声を聞くのは久々だ。電話の声は昔と変わった風はなく、違うことと言えばBGMのように赤ちゃんの泣き声がすることくらいだ。
    『えー、すごいね』
    「同窓会、来ないかな」
     中二と中三でクラス替えはなかった。成人式には来ていなかった気がするけど、再来月の同窓会には来てほしい。あわよくば斑鳩ルカも連れてくればいい。
    『忙しいしょお、無理じゃない? ――』
     美紅が何か言ったけど、赤ちゃんの声に紛れてよく聞こえなかった。
     適当なとこで電話を切って、私は二人のユニット名で検索する。ライブやイベント情報は文字がぎっしりあって、売れっ子なんだなと分かった。
     勝ちじゃん。
     私もだけど、緋田美琴も。
     私が負けだった場合耐えられないからどっちがどのくらい勝ちなのかは考えないことにした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works