「お願いしたいことがあります」
覚悟を決めて切り出した己の声が、閉め切った執務室に響く。視線の先に座した主は驚く様子もなく、ひとつ頷いて口を開いた。
「修行か」
「――はい。己を、私自身の立ち位置を見極める、そのための旅に出る許可をいただきたく」
自身を奮い立たせるように、ぐっと背筋を伸ばす。
刀剣が神妙な顔で切り出す話なんて、十中八九修行の申し出だ。この本丸でも、はじまりの刀を筆頭にもう何振りも修行へと見送っている。断られることなんてめったにない。わかってはいても、いざこうして願い出る側になると不思議と気圧されてしまう。ぴりぴりとした空気は主が纏っているのではない。私が放つ緊張感に私自身が怯んでいるのだ。
2549