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    amane_sw

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    amane_sw

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    オンリーでこんな本を出す予定でしたという篭手切修行前日話
    R-18パート追加版は推敲してから

    #こてぶぜ
    armrest

    「お願いしたいことがあります」
     覚悟を決めて切り出した己の声が、閉め切った執務室に響く。視線の先に座した主は驚く様子もなく、ひとつ頷いて口を開いた。
    「修行か」
    「――はい。己を、私自身の立ち位置を見極める、そのための旅に出る許可をいただきたく」
     自身を奮い立たせるように、ぐっと背筋を伸ばす。
     刀剣が神妙な顔で切り出す話なんて、十中八九修行の申し出だ。この本丸でも、はじまりの刀を筆頭にもう何振りも修行へと見送っている。断られることなんてめったにない。わかってはいても、いざこうして願い出る側になると不思議と気圧されてしまう。ぴりぴりとした空気は主が纏っているのではない。私が放つ緊張感に私自身が怯んでいるのだ。
    「わかった。行ってきなさい」
     安堵と一緒に息が口から漏れる。すっと身体の力みが抜けて、自分がそれまで呼吸すら忘れて相対していたことに気づいた。
    「ありがとうございます! ——必ずや己を磨き、胸を張って本丸へと戻ってきます」
     己のこれまでの縁を辿り、私を見つめ直す旅。なりたい自分になるための、私にとって大きな一歩。思いを馳せるだけで魂が震えた。
    「——じゃあ、この日からでいいな?」
    「はい、問題ありません。ありがとうございます」
     出立の日はすぐに決まった。三日後の朝だ。すぐにでも修行に出たい、そんな私のわがままを許してくださった主に改めて深々と頭を下げる。それを片手で制すると、主は姿勢を崩した。畏まった空気を振り払うように軽い口調で続ける。
    「準備なんかもいろいろあるだろうから、出立までは非番でいいよ。皆には俺から伝えておく。ああ、何か入用なものがあれば教えてくれ。持ち込める範囲内でなら用意する」
    「承知しました」
    「ほかに何か要望は? 俺にできることなら対応するが」
    「……要望、ですか?」 
     その言葉に少し面食らう。十分すぎるほどわがままを聞いてもらっているのに、これ以上何を求められるというのだろう。
     特にありません、そう告げようとしたところで、不意に思いついたことがあった。わがままを、もうひとつ許してもらえるのなら。いや、でも。逡巡の末、思い切ってもう一度口を開く。
    「もうひとつ、お願いがあるのですが――――」


       ***

      
     正門から鐘の音が響く。もうほとんど地面から浮いていた右足の爪先が待ちきれんばかりにぐっと畳を踏みつけて、私はその勢いのまま立ち上がった。出迎えるべく自室を飛び出す。
     玄関先には既に出迎えの刀が集まって、帰陣したものたちに労いの言葉をかけていた。あちこちにできた賑やかな輪の一つ、探していた姿はその中心にあった。私から声をかけるより前に、赤い瞳がこちらに気づいてにっと笑う。
    「ただいま」
    「おかえりなさい! 成果はいかがでしたか」
     私が訊ねると、りいだあが笑みを深くして親指で後ろを指し示す。玄関先には藤袴でこんもりと盛り上がった籠や資源やらが山のように積みあがっている。戦果は十分すぎるほどだったらしい。怪我もないようだ。満足そうな表情に、私は心から安堵した。これなら、旅立ちを報告できる。
        
     部屋の戸を閉めるのに合わせて深く息を吐く。すると、もうひとつのため息が部屋の中から私のそれに重なった。慌てて顔を上げるとりいだあが装備を解いている。上着を受け取りに駆け寄ると、りいだあはいつもの調子でありがとなと笑った。
    「お疲れですか」
    「や、そうでもねーよ。ちっとは疲れたけど」
     それならよいのですが。そう返すと、今度はりいだあのほうが口を開いた。
    「お前のほうこそ、なんかあったっちゃろ」
     息を呑む。ふたりになれる場を、話を切り出す機会を探してそわそわと落ち着かなかったこの数分間のことを、りいだあは見透かしていたのだろうか。
    「りいだあ、あのっ、——お話が、ありまして」 
    「うん」
     りいだあの相槌が私の背中を押してくれる。大きく息を吸って、吐く。覚悟を決めて、私は口を開いた。
    「修行の、許可が下りました」
     言い終えて視線を落とすと、りいだあの上着を抱えたままだったことに気づく。本当ならもっと場を整えてから伝えたかった、いや、そんなにかしこまって伝えるようなものでもないのかもしれない。刹那の間に、言葉にするでもない数多の思いが頭をぐるぐると巡っていく。じっと見つめた先で、りいだあがゆっくりと口角を上げた。
    「そっか。そろそろだろーなって思ってたよ」
     予想していたものとは違う反応に、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。驚かないのか。
    「あの、……驚かないんですか」
     思わずそのまま訊ねると、そんな私の様子を見てりいだあはさらに笑って続けた。
    「わかるよ、最近のお前見てたら。そろそろ行くんだろうなって」
     わかんねーと思ったか? 悪戯っぽい表情にどきっとする。気取られていたことへの恥ずかしさより、私の決意を察するほどにりいだあがこちらを見ていてくれているその事実のほうが何倍も嬉しかった。
    「で? 出発はいつにすんだ?」 
     改めて上着を片付けていると、背中にりいだあの問いが飛んでくる。長押に衣紋をかけて振り返ると、私はりいだあの対面に腰を下ろした。
    「明後日になりました」
    「ずいぶん急だな」
     私が日取りを告げると、りいだあもさすがに驚いたようだった。幾度も瞬きを繰り返して、一瞬視線を手元へ落とす。けれどすぐにこちらへ顔を上げて、再び視線がぶつかった。
    「当番とかねーのか?」
    「明日は休んでいいそうです。今日は元から非番でしたので」
    「そっか」
     そう答えたきり、りいだあは口元に手をやって何やら黙り込んだ。今朝の出発前、明日も終日遠征だと言っていたからきっとそれについてだろう。
     りいだあの伏せられた目に、どこか寂しそうな色が見えたような気がしたのは私の思い上がりだろうか。少しの逡巡の後、私は意を決して口を開いた。
    「——先程、りいだあの非番も主に申請してきました」
     りいだあの顔が上がる。その瞳がきらりと光ったのを確認した途端、私の自惚れが膨れ上がった。勢いのまま、私は半ば身を乗り出すようにしてこう告げた。
    「明日一日、私にりいだあの心をください」
     
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    DOODLEこてぶぜ 顕現したての豊前が篭手切を撮りたがる話 おぼつかない手つきで、人差し指が端末の上をゆっくりと動く。その手が止まって顔が上がるまで、私は自分のものと似ているけれど少し違う、真新しい内番服に身を包んだ刀の姿を眺めていた。
    「そこをたっぷすると、……はい、このように私に文を送ることができます」
     言葉を切ったのとほぼ同時に、私の端末から短い電子音が鳴る。懸命に打っていた文章が表示されたその画面を向けると、顔を上げたりいだあは面白そうに目を輝かせた。
    「おー、ほんとだ。すげーな」
    「本丸でもほとんどの刀がこれを連絡手段にしているので、覚えておいてくださいね。余程のことがない限りはどの時代からでも連絡が取れるはずなので」
    「ん、りょーかい」
     りいだあはまた自分の端末に目を戻して、何かの操作をしている。見慣れない機械に抵抗を抱く刀も少なくないけれど、りいだあはどうやら新しいものには興味を抱くほうの刀であるらしい。
    「細かい操作はその都度聞いていただければお教えします。ひとまず今日はここまでにして、お茶にしましょうか」
     説明を始める前に淹れた緑茶は、もう冷めてしまったかもしれない。新しく淹れ直したほうがいいだろうか。湯の入った魔法瓶 2595

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    PROGRESS新刊の一部 頭の整理がしたい きらきらと瞬くような楽器の音が、明るい調子で恋を紡ぐ声が、頭の中に流れ込んでくる。私は今日こそ歌の世界に飛び込みたくて、耳を澄ませて瞼を閉じた。

     一日の終わりや非番の日、自室で文机に向かって音楽を聴くのが好きだった。自分で歌うのも踊るのも楽しいけれど、誰かの歌声を聴くのだって面白いし何より勉強になる。今風の音楽の感覚を掴むにはとにかく聴き込むのが一番だ。
     音を拾うのではなくて、耳の中から直接さまざまな音が鼓膜を震わせるこの感覚にもすっかり慣れてしまった。主の勧めで初めてこれを手にして、私の指先ほどしかない小さな機械から流れるたくさんの音色にいたく感動したあの日が、もう遠い昔のことのように感じる。れっすんのときには手放せない存在になったこの機械も、そして私自身も、新入りとして扱われる期間はとうに過ぎた。
     両耳を塞ぐそれから流れるのは、最近特に気に入っている歌だった。影ができないほど強く当てられた光のように、楽器の音色も、歌声も、紡ぐ言葉も、その曲はすべてが眩しかった。おそらく初恋を題材にしたそれにはどこにも後ろ暗さや切なさなんて見当たらず、ただただ主人公が初めての感情に振り回さ 2058

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    「そこをたっぷすると、……はい、このように私に文を送ることができます」
     言葉を切ったのとほぼ同時に、私の端末から短い電子音が鳴る。懸命に打っていた文章が表示されたその画面を向けると、顔を上げたりいだあは面白そうに目を輝かせた。
    「おー、ほんとだ。すげーな」
    「本丸でもほとんどの刀がこれを連絡手段にしているので、覚えておいてくださいね。余程のことがない限りはどの時代からでも連絡が取れるはずなので」
    「ん、りょーかい」
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