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    mame

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    mame

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    地獄に堕ちた千ゲンのはなし。
    ※超happyな話のつもりですが、なんでも許せる人向け
    ※地獄に堕ちたあとの話なので死後の話
    ※他のキャラの名前も出てきます
    #地獄堕ち婚約千ゲン作品

    どうやら本当に地獄というものは存在したらしい。
     覆い茂った木々の隙間を縫うようにして見えるのはおどろおどろしい色の空。足元は舗装されていない荒れた土。なんだか見たことのない植物がやたらと生えている。調べたい気持ちをぐっと抑え込み、千空は前を見据えた。一応道らしい道はあるし、道の先に川や橋みたいなのも見えるし、おそらくその先にどでかい御殿みたいのもある。とりあえずあそこに行くべきだなと千空は頭を少しだけかいて、ゆっくりとした足取りで歩きはじめた。刹那。

    「えっ!? 早くない!?」

     横からいやに聞き慣れた声がして、千空は俯き気味にハッと鼻で笑う。感動の再会、みたいなのは自分たちには無理だったようだが、それでも再会することは叶ったらしい。そんなことを考えながら、千空は腰に手を当て、声のした方をみやる。そこには道端でしゃがみこみ、手を泥まみれにしながら何か木の枠で成型しているゲンの姿があった。鍬やスコップなどがあり、ゲンの周りには雑草がないことから土まみれのゲンが整地したのだろうことが想像できた。
     へにゃりと眉尻を下げ、ゲンが立ち上がって肩を落とした。感動とまでは言わないからちょっとくらい喜べよ、と内心で思うが、口には出さなかった。

    「ね~~、千空ちゃんジーマーではやいよー、ゆっくりしてきなよ言ってたじゃん」
    「こっちの時間の流れがどうなってっか検証する必要があんな。俺としちゃかなりゆっくりしてきたつもりだが」
    「えー、そうなの? 俺の『生活基盤ゴイス~に整えて、やるじゃねえかメンタリスト100億万点やるよ計画』大失敗じゃん〜」
    「んだそのダセえ計画名は」

     どう水を引いてきたのか、ゲンの座っていたところには蛇口があった。そこで手についた泥を洗い始めたゲンに近寄りながら、千空は周りを見渡す。

    「ここ地獄ってことでいいんだよな?」

     手を洗い終えたゲンが首にかけていたタオルで手を拭きながら腰を上げる。随分ひさしぶりにゲンが隣にいて、じんわりとした温かいものが千空の胸にこみあげてくる。こんな気持ちで地獄だなんて、本当にいいのかと思えてしまう。

    「ああ、うん。そう。地獄なんだけどね、なんか……その……」

    「歯切れわりーな。さっさと言え」

     千空が片眉を跳ね上げ顎をしゃくって話の続きを促すと、一緒にいなかった時間などなかったかのようにゲンが肩をひょいとすくめてから千空のとなりに並んだ。

    「ジーマーで相変わらずだね。うーん、まだ千空ちゃんあそこ行ってないよね?」

     ゲンが指さしたのは橋の向こうにある立派なバカでかい御殿だ。よく目を凝らすと御殿の前には人らしきものが見える。バカでかい門を潜っていく人間もいれば、泣き叫ぶのを両脇から抱えられて門から出てくる人間もいるようだ。

    「まだだ。つーか、今しがた気付いたらそこにいたんだわ」
    「そっか、まあね、閻魔ちゃんがあそこにいるわけなんですが」
    「テメー、閻魔までちゃん付けすんのかよ」
    「距離は詰めていかなきゃじゃん? で、ま~あの御殿に行って閻魔ちゃんと話したり鏡の前に立たされたりして、どの地獄に行くのか判断してもらうシステムらしいんだけど、俺が行ったら閻魔ちゃん困っちゃってね、なんか〜なんて言えばいいのかな……」

     閉じた唇をゆがめて、腕を組んだゲンが頭をひねる。隣に並んで同じ方向を見ている行為が懐かしく、自然と千空の口元が緩んだ。

    「俺がした行いは地獄堕ち確定らしいんだけど」
    「実際堕ちてるしな」
    「そうなのよ。でもね、内容というか真意と言うか、それは善行と呼ばれるものだから地獄じゃ扱いにくいんだよね〜って言われちゃってさ」
    「はあ?」

     千空の眉間に盛大に皺が寄った。ゲンはその千空の表情を見てくしゃりと破顔してから、閻魔大王がいるらしい御殿を指さしていた指でぐりぐりと千空の眉間をほぐすように抑えてきた。ぎゅっと目を瞑って抵抗してみるが、じゃれ合いのようなそれに結局千空の皺は伸びてしまった。

    「なんか、色々あるじゃん。地獄の種類。黒縄とか宗合とか血の池とか」
    「血の池は観光地だろ」
    「とにかくそういうとこ行くほどじゃないんだって。でも天国にいける条件は満たしてないから地獄にはいないといけないらしいのね」
    「はあ……んで? 行くとこねえからここ居たって?」
    「自分で家建てるなら好きなとこに住んでいいって言われたのよ」
    「それでここに家建ててんのか」
    「そう。それでここに家建ててんの」

     つまり家を建てるために土地をならし、水道をゲンは引いたのだ。さっき作っていたのは家の土台にするレンガだろう。千空に言われずともひとりでゲン曰くの無限ドイヒ~作業をしている男がおかしくて、クツクツと息をつめながら肩を震わすと、隣から居た堪れなさそうな視線が寄こされる。それなりに自覚はあるらしい。

    「あっ、そうだ地獄のお仕事お手伝いしたらお給金貰えるって! 御殿の近くのとこに街があってさあ、色々お店もあんのよ! いくらかお金俺も持ってるから、あとで買い物いこうね」
    「ほーん、なんか面白いもんあったか」
    「あったあった。絶対千空ちゃん唆られるお花あったから退屈しないと思うよ」

     退屈するかどうかなど、ゲンが一緒にいる時点でありえないというのに、嬉しそうに微笑むゲンは全く気付いていないだのだろう。
     やたらと察しがいいくせに、こういうところはなぜか鈍い。それが可愛く感じるようになったのはいったいいつからだろうな、と千空は頭の隅っこで考える。ついぞ気持ちを伝えることはなかったが、なんだかんだ生前一緒にいた。ゲンが先に逝ってからも、ゲンが作ってくれた環境のおかげで充実した時間だって過ごして。随分満たされた気持ちで人生を終えたというのに、どうやら神様というのは随分千空に甘いらしい。

    「街があるのになんでここにしたんだ?」

     腰に手を当て隣のゲンに尋ねれば、きょとんと千空の問いに目を丸くしたゲンが、にんまりと唇の両端を上げて見せた。ああ、その悪巧みの表情も久しぶりだなと千空は思う。くるくる変わる表情を見るだけでゲンとの時間において千空は退屈知らずだ。

    「ふっふっふ、聞いて驚け千空ちゃん! なんと!」
    「なんと?」
    「地獄には!」
    「地獄には?」

     楽し気なゲンに千空も気分よく相槌を打ってやる。そうするとノリに乗ったゲンがばっと右手を高らかに上げた。その上げられたゲンの手の中にあったのは、千空にもよく見覚えがあるもので自然と目を見開いた。

    「携帯電話があります!」
    「……!?」

     ばっとその手から勢いよく問題の物を取り上げる。どこからどうみても携帯電話だ。スマートフォンではなくいわゆる通話に特化したガラケーではあるが、間違いなく携帯電話。驚きに瞬きを繰り返していると、ゲンが横から千空の手にある携帯をすっと抜き取った。

    「作ったのか」
    「まさか。仕事手伝うならって支給してもらったのよ」

     千空ちゃんも多分手伝うって言ったらもらえるんじゃない、なんて言いながら、ゲンの視線は手元の携帯電話だ。ぴっぴっとボタンを押したかと思えば、ゲンが俯いた顔そのままの角度で千空に視線を寄こす。はらりと落ちたゲンの横髪を触りたくなりながら、千空はその視線を自身の視線でからめとった。再びにんまりと口元に三日月を浮かべたゲンの口が開く。

    「千空ちゃん、本題はこれからよ」
    「詳しく聞きてえことがありすぎんだがどうすりゃいいんだ」
    「さらに聞いて驚け千空ちゃん! なんと!」
    「無視か……なんと?」
    「ここは!」
    「ここは?」
    「地獄で唯一、天国と電話がつながるゴイスースポットです!!」

     じゃーん、と両手をひらひらさせながら、まだ何もないまっさらな土地に向かってゲンが腕を広げた。ふたりの間に、沈黙がぽとりと落ちた。
     ――電話が、つながる。そりゃ電話だからつながるに決まっている。どこに? 天国っていったか。天国。天国ね……。

    「はああ????」

     やっと理解が追い付いた千空に、うんうん驚くよねと満足そうにゲンが数度頷いた。にまにまと人の悪い笑いを浮かべながら、ゲンがまだなにもない土地を眺める。茶色い土はなんだか石神村の土に似ているような気がする。

    「……なんでテメーが唯一の場所しってんだ」

     天国の存在だとか、天国に電話がつながるだとか、にわかには信じがたい発言ばかりではあるが、地獄の存在がそれをまったく否定できないのだから困り者である。考えなければならないことは山ほどあるが、それはとりあえず置いておいて話を進める必要があった。
     顔を顰めたまま千空はゲンに向かい質問をなげれば、あっさりと答えが返ってくる。

    「仲良くなった門番の人にこっそり教えてもらった」
    「テメーの適応力なんなんだ」
    「石器から作りはじめて文明復興させた人に言われたくないなあ」

     ふふ、と歌うように笑いながら、ゲンは再び千空の隣に立った。

    「だからねえ、俺、今朝カセキちゃんと電話しながらレンガ作ってたのよ。あ、あとで電話してあげてね。そんでね、ふふ、あっちでカセキちゃんが見つけてくれたんだって」
    「……なにを」

     カセキってあのカセキだよな、と驚きながら妙にテンションが高くなってきたゲンを千空は訝し気に見やる。カセキについても後で聞こう。どうやって連絡先知ったんだとか、カセキは元気そうだったかとか、色々。そう千空は決めて、ゲンが話したいように先を促した。
     上機嫌でゲンは携帯を持たない反対の手を顔の横に上げ、ぴっと人差し指を立てる。指先をわずかに揺らしながら、子どもに重要ポイントを教えるときのような仕草を見せた。

    「俺としては『生活基盤整えてやるじゃねえかメンタリスト100億万点やるよ計画』を終えて千空ちゃんが地獄入りするタイミングで」
    「地獄に堕ちることを局入りみてえにいうなバカ」
    「手作りテラスで優雅にお茶でも飲みながら、通りがかった千空ちゃんに天国からお電話ですって携帯電話渡すつもりだったんだけどな〜」

     はい、と差し出された、先ほどゲンの手に戻ったゲンの携帯。自然と千空の視線はその携帯の小さな液晶画面に移る。映し出された画面はアドレス帳のようで。とくん、と千空の心臓が大きく跳ねた――画面にあった文字は、名前は。

    「テメ……マジかゲン……」

     差し出された携帯電話を受け取り、信じられない気持ちでぎゅっと握りしめる。いつのまにかゲンを取り巻く空気は酷く柔らかいものになっていて、どうしようもない気持ちになる。ゲンの顔が見れない。

    「ジーマージーマー。俺ってばやるときゃやる男だからねえ。ま、あっちで探し回ってくれたカセキちゃんが一番の功労賞なんだけど」

     やさしく温かい声だった。ゆったりとした口調が千空の上から降ってくる。『千空ちゃんパパ』なんてバカみたいな名前で登録されている自身の父親の存在が、その液晶のなかにはあって、ぎゅっと携帯を握りしめたまま、千空は大きく息を吐いた。

    「そういうわけで、まあ、衣食住が確保できた状態で天国との電話ができるってのを売りに、千空ちゃんにここで一緒にすみませんか? っていうお誘いをさ、俺はするつもりだったんだけど、ジーマーで早いよ千空ちゃん。まだ土台作りの序盤も序盤よ」

     その言葉に、勢いよく千空は顔を上げた。そこには情けなさを滲ませたゲンがいて、やっと千空は納得した。なるほど、早い早い言われたのは、千空を誘う理由がまだ作れていなかったから。――だから、そんなもんなくても、千空はゲンがいればべつに良いというのに。
     ゲンに見えないように千空は短く笑う。どうせ千空もゲンと同じルートを辿るのであれば、一緒に家を作る方が合理的だ。一緒に住むんだから、なおさら。

    「……天国と携帯で電話できるってことは電波が届く範囲に天国があるってことだな」

     背筋をぐっとのばして、千空はゲンをまっすぐに見た。こんどは千空がにやりと笑う番で、同時にゲンの顔がみるみる青ざめていく。

    「そ、だね? あっ、待って待って。ゴイスーに嫌な予感するんだけど」
    「作るぞ! 天国行きエレベーター!!」
    「ですよねーー!! えっ、ウソでしょウソでしょ、千空ちゃん。本気で言ってる?」
    「地獄に住んでたら文句言われねえだろ」
    「いや言われると思うよ流石に! バイヤ~すぎんでしょ!」

     大げさな表情と大きな声で千空のクラフトに派手な反応をゲンが見せる。それに千空は腹を抱えながら笑った。結局、現世だろうが、地獄だろうが、隣にゲンがいれば千空の生活は十分なんとかなるのだ。
     この後、閻魔大王のところに挨拶に行ったついでに天国行きエレベーターのクラフトを打診したら、閻魔大王の補佐官に千空は金棒で殴られたのだが、それはまた別の話である。
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    「えっ!? 早くない!?」

     横からいやに聞き慣れた声がして、千空は俯き気味にハッと鼻で笑う。感動の再会、みたいなのは自分たちには無理だったようだが、それでも再会することは叶ったらしい。そんなことを考えながら、千空は腰に手を当て、声のした方をみやる。そこには道端でしゃがみこみ、手を泥まみれにしながら何か木の枠で成型しているゲンの姿があった。鍬やスコップなどがあり、ゲンの周りには雑草がないことから土まみれのゲンが整地したのだろうことが想像できた。
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