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    mame

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    おみくじ:エーサボSS
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    現パロのふたり。

    2023おみくじ:エーサボ 息を切らしながら冷たい地面を蹴る。吐き出す息は真っ白で、巻いていたマフラーはさっき取っ払った。手に持っているのも邪魔だが、弟からもらったプレゼントのため邪険にもできない。
     人混みを縫うように走り抜け、エースはちらりとスマートフォンの画面をみた。バナー通知には待ち合わせ相手であるサボの名前が表示されていて「別に焦んなくていいからな」なんてメッセージも届いていた。その言葉に走っている負荷とは別にエースの胸の奥が締め付けられた気がした――そう。いま、エースは絶賛、恋人であるサボとの待ち合わせに遅刻中なのである。
     言い訳をさせてもらうと、バイトのシフトが予想外に長引いてしまった。ただそれだけだ。
     一月一日のエースの誕生日をサボが祝うようになってくれてから、もう数年になるが、毎年全力でサボが祝ってくれるので、あんまり自身の誕生日にポジティブな印象を持っていなかったエースも楽しみになってきたくらいだ。
     しかし世間一般では一月一日は元日というもの。その日、基本的に飲食店は休業で、だからこそエースのバイト先である年末年始も変わらず営業のチェーン居酒屋には客があふれかえる。
     チェーン店でも正月は休んでいいんじゃないかとエースは思う。人員だって足りないし。今年はエースだってサボと朝から楽しく過ごそうと休みの申請を出していたのに、店長が勝手にシフトを入れてしまったので大喧嘩になった。
     それでもやはり入れる人が全然おらず、渋々エースはシフトに入ったわけだ。今年は朝からずっと一緒にいよう、とエースがサボに言ったとき、サボはぱあっと花が綻んだように表情を明るくした。その表情がエースは忘れられないし、反対に、シフト入ることになっちまったと謝ったときの、眉を下げしょうがねえよと笑った顔も忘れられない。
     本日はその一月一日、当日であった。
     エースがシフトだとわかると、シフトが終わり次第待ち合わせして初詣に行こうとサボが提案してくれたので、エースは二つ返事で頷いた。ふたりで行こうと約束した神社は毎年多くの出店が出ているので、食べ歩きでもしようとサボは笑ってくれていて、バイトが終わったらすぐ行くとエースは約束したのだ。
     ランチ営業からぶっ通しでシフトに入って、夕方には上がるはずだった。だというのに。現在の時刻は午後二十二時。スマートフォンの液晶に映る時刻に舌打ちして、エースは足の動きを加速させる。客足が途切れず上がれなくて、店長にも頼むからいてくれと懇願され、結局エースは大幅に残業することになった。結果、出店なんて終わっている時間だ。サボにはシフトが超えるとわかった時点で連絡を入れたが、残念ながらサボはもう家を出ていたらしく、適当に時間潰しとくと返信がすぐにきた。
     申し訳ない思いでシフト延長したわけだが、思っていたよりも長引き続けいまだ。
     エースが働いている間、サボから何回か「まだかかりそうか?」「無理すんなよ」と連絡が入っていて、シフト終わり着替るためにロッカールームに飛び込んだエースはというと、着替えるのをやめた。仕事着の上から着替えることなくダウンとマフラーを身に着け、きれいな着替えが入ったリュックを背負い、スマートフォンを握りしめ店を飛び出した。サボのやつ、間違いなく外で待ってる、と直感でわかってしまったからだ。
     今から行く、ごめん、とだけスニーカーを履きながら送った返信がさっき帰ってきたものだ。その温度感にやっぱ外にいるだろこいつ、と確信したエースである。
     待ち合わせ場所にしているのは神社の階段の手前。エースのバイト先から歩いて十五分程度の場所だ。繁華街から少し抜けたところにある神社は、このあたりの人間みんな参拝に行く場所だ。そんな人混みのなか、サボは何時間エースを外で待っているのだろう。
     サボは変なところであっさりしていて、変な割り切り方をする。サボの執着のしかたがよくわからない。だから、エースは自分に執着してほしいと思うし、実際サボはエースに執着してくれていると思う。だけど、こういうところで健気に外で待たれるのはエースの意に反するわけで。エースのことを待ってくれるサボの心はとても嬉しい。多分、エースじゃなければサボは待ち合わせ時間に相手がこなければあっさり帰る。あとふたりの弟であるルフィのことも待つだろう。特別に待つ相手、待ちたい相手としてサボの懐の中に抱えてもらっていることが嬉しいのだ。けれど、それはそれとしてあったかいところにいてほしい。否、そもそも待たせる方が悪いのだが。
     ぐるぐるとエースが考えている間も、エースの足は勝手に動く。横断歩道を走り抜け、橋を渡るとぼんやり明かりが灯る行灯の下。階段の手すりに寄りかかり、スマートフォンをいじっているサボの姿。スヌードはエースが先日のクリスマスにプレゼントしたものだし、スニーカーはふたりで色違いで買ったもの。アウターは多分、この前あったときに似合ってるなとエースが褒めたもの。
     今日のサボはきっと、エースのためにある。つむじから足の先まで、すべて。だからずっと、一秒でも早く会えるように、サボは待ってくれていたのだろう。
    「サボ!」
     サボの姿が視界に入ってすぐに、エースはその名前を呼んだ。雑踏に紛れてサボに届く前に消えてしまいそうなエースの声は、しっかりと拾い上げてもらえたらしい。
     ぱっと上げられた顔の真ん中についている鼻は遠目からでも真っ赤になっている。そんな寒さに負けている顔で、寒さなんて感じていないような表情でサボの瞳に生気が宿る。
    「エース!」
     サボの声も、エースの耳に届いた。お互い、拾えないはずがないのかもしれない。
     スピードを緩めることなくエースはサボの元へ突っ走って、そのままダウン越しでも冷たさを感じるサボを抱き込んだ。こら、と普段なら怒られそうなものなのに、エースがサボに抱き着くのがわかって、両手を広げてくれたのだから、寒さと乾燥とは別に鼻の奥がツンとした。
    「待たせた!」
    「いーよ、おつかれエース」
     ぽんぽん、と背中をたたかれる。あったけ、と笑うサボの吐息が耳にかかってエースは抱きしめる腕の力を強めた。今年も「あけましておめでとう」の前に「誕生日おめでとう」をプレゼントしてくれるサボに、エースは、エースにあげられるものは全部おしみなくあげたいと心から思った。
     まずは、走って上がりきった体温のおすそ分けからどうだろうか。
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