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    ちょこのせ炎柱

    例のフィギュアに狂わされました。

    「よろしくお願いいたします!」
     フォトスタジオに快活な声が響く。鬼殺隊最強の武人の一人、炎柱・煉獄杏寿郎その人だ。
     鬼殺隊の広報活動の一環として、立体像の制作のモデリングに当人へ撮影任務が言い渡された。ブルーバックの背景を背負って、足元に張られた養生テープの目印の上にしっかりと仁王立ちする。炎柱は近年、立体制作が盛んに行われているのでこの撮影もこなれたものなのだ。
     炎柱を取り囲むカメラの台数は9台、全てのレンズが煉獄杏寿郎の姿を捕らえている。初めて撮影に臨んだ時は、見たこともない大きなカメラレンズがまるで鬼の目玉のようでもあり、その全てが自身を舐めるように向けられている状況に居心地悪そうに固まっていたが、何度も繰り返される撮影にすっかり朗らかな表情が見られるようになった。

    「炎柱様、本日はこちらにおかけになってください。」
    「わかりました。」
     撮影を担当する隠が、ブルーバックに溶けいるような真っ青のスツールを煉獄の背後に設置する。その指示に従って腰掛けた彼は、両手で緩く拳を握り、膝の上に置いた。
    「それでは、こちらのお弁当をお食べください。」
    「弁当!それはありがたい。あとで頂きます。」
    「ああ!違うんです、今回の立体はお食事をしている姿になりますので、こちらを召し上がってください。」
    「なるほど!それでは遠慮なく。いただきます。」
     笹の葉に包まれた弁当を両手で受け取ると、丁寧に包みを開く。四個ならんだ握り飯は米の一粒一粒が立ち、ふっくらと握られているのが見るだけで分かる。両手でひとつ持ち上げると、緩やかにつけられた頂きを一口、齧る。
    「うまい!」
     塩のきいた握り飯は、丁度空き始めていた小腹を満たし、再びスタジオ内に快活な声が響く。更に一口、もう一口と食べ進め、嚥下するたびにその声が響く。心底うまそうに、大切に握り飯を頬張る炎柱の姿にフードコーディネーターも思わずにっこり。握り飯が一つなくなったところで、新しい握り飯が膝の上の包みに追加される。

    「炎柱様、すみませんが…。」
     撮影監督と耳打ちをしていた隠しが、おずおずと米粒の付いた親指を舐める煉獄に話しかける。
    「実は、先に撮影をすませた水柱様と構図が似通ってしまっているようで…。」
    「冨岡と?」
    「ええ、なので…少しポージングの変更依頼がありまして。」
    「わかりました、全てお任せしましょう!」
     ほっと胸を撫で下ろした隠が、監督に告げられたポーズを伝える。スツールの上に胡座を組み、両手に握り飯を持つ。両の手が塞がってしまっては、不測の事態に対応ができず不便ではないか?とスタッフを気遣い側に仕えた隠にたけ聞こえるように訊ねる炎柱は、たとえ撮影現場であろうとも警戒を怠らないストイックさだ。隠は緩く首を左右に振って答えるのみだった。

    「うまい!」
     両の手に持った握り飯を交互に齧り、小腹を空かせていた腹も落ち着いてきた頃合いで十分な撮影が終わったらしい。お疲れさまでした、と響く声に続いて労いを送る拍手が響く。この度の主役である炎柱は食べさしの握り飯を食べ切ってから、長いこと座り続けたせいでぎこちなく胡座を崩し立ち上がる。
    「お疲れさまでした!」
     9台のカメラ、アシスタント、そして次々と消費される握り飯をせっせと作るのに精を尽くしたフードコーディネーターへ丁寧に頭を下げる炎柱の姿をチェックモニターを宿木代わりにした鎹烏が誇らしそうに見詰めていた。
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