Good night my life僕の世界は無色透明だ。いや、この言い方はきっと誤解がある。確かに目に映る世界には色はある。だけど、それはいつも「有る」だけで、見えない「何か」を彩るものでは無い。
幼い時は見える世界全部が輝いていて、綺麗で好きだった。色んなものにドキドキして、色んなものに好奇の目を向け、触れていた。そんな中で僕が心踊らせていたのは、物語の世界だった。美しく繋げられた言葉から、どこまでも自由な想像ができて全部輝いていた。なのに、この歳になるとそれらはただの文字を羅列しただけに見える。想像したってあの頃と同じドキドキもない。想像の世界じゃ触れることも出来ない。
「……飽きたな」
不意に出た言葉だった。食べても何も感じない今に飽きた。机に向かって進んで知を手に入れることにも飽きた。何をしても、踊ることの無い心に飽きた。
昔誰かに言われたことがある。いつかきっと君の渇きを満たす何かが見つかる。根拠のない言葉だ。いつかきっと……不確定要素を混じえて、見つからなくても責任を負う必要が無い言葉。うんざりだ。
いつか、本を読んだ時にこんな言葉が書かれていた。本を読む人はきっと本を書く側になればきっと世界が変わる。僕は変わったから試してみてください。
その言葉を信じて何年か、物語を綴ったことがある。書くのは楽しかった。だけど世界が変わるほどではなかった。個人差があることは勿論承知の上だ。だけど、その言葉を信じすぎて傷ついた。もう、嫌だ……。
そんなことの繰り返し。人生、山あり谷ありなんて言うけど、本当は運動場のトラックをぐるぐると回っているだけだと僕は思う。一切進むことも無ければ退くことも無い。同じ景色だけを見せつける世界は無彩色と変わりは無い。
つまらない。もし、こうなっているのが僕だけならば僕という人間エラー品だ。エラー品は業者に回収してもらって、新しくやり直そう。そう思って僕はこの世から離れることを決意したのだ。
死ぬのが怖くないという訳では無い。痛いのも怖いのも人並みには嫌だ。だけど……乗り越えなければ、ずっと変わらないままだ。
机の上に置かれたハサミを震えた手で持って自分へと向ける。やるなら早い方がいい、そう思って咄嗟にとった行動だった。
「……龍、ごめん」
口から出た言葉は家族ではなく、僕の唯一の友人への謝罪だった。何に謝ってるのか、どうして謝るのか、自分にも分からなかった。
その言葉が出てから濁流のように、僕の中にあったやり残しが頭の中を支配する。まだ、ダメだともう一人の自分が訴えかけている様だった。
「やめよ。まだ……やり残しあるし」
持っていたハサミを元の場所に戻してベッドに入り込む。目を閉じても変わらず世界は真っ暗だ。目を開いていた時と大差はない。あちら側も、きっとそんなに変わらないだろう。
そんなことを勝手に想像をして、死ぬ日を決めた。修行式が終わってから6日後に死ぬ。そうすれば、きっと龍ともちゃんと別れを告げることが出来る。他にやりたいことが出来てもちゃんと済ます余裕がある。
それが、きっといい。僕という人間にとって最高の終わらせ方。
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Good night my life -おやすみ、僕の人生-
イメソン→自傷無色
綴にとっては多分、自称無色の方があってるかもね