For overtime work「ふう……なんとか終わった」
そう言ってエマは仕事の相棒であるデスクトップパソコンの画面を眺めていた。ここのところ怪異事件が頻発し、事件の資料整理が出来ておらず散らかっていたのが几帳面なエマには許せなかったようだ。通常の業務を終えた後、PCUのメンバーに通り声をかけてもらっていた様だが片付けに集中していたせか今日はその声に気づかなかったようだ。
パソコンの右下に表示された時間は22時過ぎ。スマホへと目をやるがノアからの連絡はない。タイミングが合えば一緒に帰ろうという約束をしているが、今日はその連絡さえもない。きっとノアも忙しいのだろう、忙しいのに連絡するもの申し訳ない。
とりあえず戸締りだけを済ませて帰ろうと部署内を回ろうと部屋から出ると、会議室から明かりが漏れていた。誰かが電気を消し忘れたとは考えづらい。事実、他の部屋の明かりは全て消えているのだから。同じ様に残業をしている人に心当たりがないわけではない。警察らしく推測を立てながら部屋に近づく。
「あ、やっぱりブラックだった」
「ん?あぁ、エマか。そっちは終わったのか?」
「えぇ、おかげさまで」
「エマのことだから、聞こえてなかったんだろうけどちゃんと時間見て返事くらいしてやれよ?」
「聞こえてないのに返事なんてできないと思うけど?」
「まぁ……どうだが。パソコン以外のものにも気を遣え。今日はルークが気を利かせてお前の部屋に行ったのに、反応が無くて困ってたぞ」
「そう、まぁ運が悪かったわね」
その返答に思わずため息を吐く。ブラックとしては、エマのこういうとこをを治して欲しいのだろうが当の本人が全く気にしていないのだから暖簾に手押しと言ったところだろうか。
「そんなことより、ブラックの方は終わったの?」
「んーまぁ、あと少しってところだな」
「ふーん、まぁ頑張って。お疲れ」
「お疲れ。ちゃんと休めよ」
「分かってるわよ。言われなくても休まないと明日に響くから」
そう言ってリュックを背負い、会議室から出ていく。ブラック以外いなくなった会議室はもういつも以上に広く感じる。日中であれば絶対に誰かがいると言うよりは、エマ以外は大抵いる会議室も今日だけは独りきり。ブラックはデスクに仕舞った煙草を取って紫煙を燻らせる。
「ねぇ、ここで吸うのはやめてくれない?」
その声に振り返ってみればエマがマグカップを片手に呆れ顔をしながら立っていた。
「帰ったんじゃないのか」
「お疲れとは言ったけど、帰るとは言ってなかったけど?」
「屁理屈だろ」
「どうとでもいえば?……はい、これ」
「俺にか?」
「当たり前でしょ?まだ時間かかるみたいだし」
「そうか、ありがたく貰っておくよ」
「それ、シイラ……私の友達が働いてるところで帰るコーヒーだから。大事に飲んでよね」
そういうと今後こそ帰るのか、手をひらひらと振りながら部屋を後にする。これもまたエマの気まぐれな気遣いなのだろうか。そんなことを考えながら、伸びをしてもうひと踏ん張り。ブラックもまた、愛する家族の元へ早く帰るために貰ったコーヒーと煙草をお供に報告書をまとめた。