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    かなすけ

    @natuiro_trpg

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    かなすけ

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    VOID ネタバレあり げんみ×

    明鏡止水に、燻る紫煙ネオンが彩る街に、サイレンの音が鳴り響く。確か、今日の予報では夜も晴れる予報だった。だが実際は分厚く黒い雲が空を覆い隠して、星空なんてものは一切見えない。科学が進んだこの時代においても天気というものはいつでも気分屋で、人類がいくら手を伸ばそうとしても届くことなどないようだ。

    そんな、空をビニール製の傘越しに覗いてため息を吐く。
    ここはあの日、レオ……いや、ミラと出会った廃材置き場。ここには今もあの日と変わらず廃棄されたアンドロイドの墓場となっている。中には、上手く壊されることがなかったのだろう、中途半端に意識がある状態で主を待つアンドロイドもいればもう自我というものを失い同じ言葉を繰り返すアンドロイドもいる。

    このアンドロイドが人間だったら、どれほどの人間が背筋を凍らせて発狂するのだろうか。そんな考えが浮かんだが、自分の精神まで蝕まれるのを感じて思考を止める。

    出来た当初はきっとコンクリートか土でしかなかった地面には今、アンドロイドの皮膚を構成するものや目玉、アンドロイドにとっては血となる青い液体が湖を作っている。

    「なにか、部品……使えるもの……」

    そんな言葉を破棄ながら 死体アンドロイドを漁る。これも、あの子達を生かすなおす為なら仕方ない……という言葉を自分に言い聞かせながら。きっと世の中の犯罪者の何人かはこの気持ちと、倫理や法を天秤にかけて前者を取るしかなかったことを今になってようやく理解できている。

    警察だったらきっとこの気持ちは分かっても、理解に至るのは不可能。だから昔から警察は頭が固いだの、分かり合えないと言われるのだ。こんなことを言ってはいるが、少し前までは自分もそちら側の人間で、なんなら最も犯罪者から忌み嫌われて唾を吐き捨てられる立場だった。

    「ラッキー、何か見つかった?」

    「ん、とりあえず腕と足。子どもサイズのはなかったからちょっと厳しいわね」

    「そっかぁ……じゃあボクはあっちも見てくるよ」

    「了解、足元悪いから気を付けてね」

    「はいよ~」

    そんな気の抜けた返事を聞いて、私も死体漁り部品探し を再開する。不幸中の幸いという言葉が適しているかはさておき、アンドロイドはガソリンやアルコール等の人間が長い間吸って気分を害する匂いがしない。ただどこかの誰かに似たアンドロイドを模して造られた量産型の子たちの顔を見ると、関わりなどないはずのアンドロイドなのに無い心が痛む。

    「ミラ、そろそろ帰るわよ」

    そう言って無線を飛ばせば、いつもの気の抜けた返事が返ってくる。

    「お疲れ、ラッキー。とりあえずこっちは子どもサイズのもいくつかあったけど、どれもすぐには使えないっぽい」

    「了解、私が直せそうなら直してみる」

    「うん、ありがとう。ならラッキーに任せちゃうね」

    「任せるなら、あんたがこれ持って帰ってよね」

    そう言って集めた体の一部部品が入った袋を投げつける。

    「え?……っちょ待って!!!」

    突然彼を襲ってた重さに耐えれるはずもなく、袋を抱えて尻餅をつく。

    「あんた、ちょっと鍛え足りないんじゃない?」

    「いや、ラキが突然投げるからでしょ」

    「え?ミラなら、受け止めれると思ってたのだけど……期待外れだったみたいね」

    そう言って見せれば彼は少しだけハッとした表情をしたかと思えば、私に微笑んでボクが悪かったよ、なんて言ってくる。ぐしゃぐしゃという気持ちの悪い音と、ビニールに弾かれる心地良い雨の音。そんな不協和音が二人の帰るべき場所へと向かわせる。

    今の私たちが帰る場所……スパローには、あの事件が起こる以前よりもアンドロイドの数が増えた。世間からすれば【アンドロイドと人の共生】を謳うテロ組織という評価は変わらない。あの事件から日本を救ったのは、この組織も一枚嚙んでいるという事実はどうやら政府や警察にとってはやはり不都合なのか、公表はされなかった。

    こちらとしては納得のいかない内容ではあったが今も、その昔のトップも、警察の花形と言われる公安捜査一課の現役警官だった人間。その事実が公表されるというのはこちらとしても都合が悪い。ここにいる多くのアンドロイドは人間に粗末な扱いをされて、心が酷く傷ついて人間を恐れている。なら私もアンドロイドという風に偽って、生きていくのがこのスパローという組織のトップを任された私の責任だと思っている。

    実際あの事件の時に一緒に行動して深く関わったニトやリト以外はもう私をアンドロイドであると思わせている。これは一重に二トとリト、そしてミラが他のアンドロイドにきちんとそういう風に話してくれたおかげである。

    「ふう……とりあえず直せそうなものはここに置いておいて。残りは明日する」

    「はいよ~」

    そう言って今日持って帰ってこれたものを一つ一つ丁寧に机に並べているミラを他所に私はひとり部屋から出ていく。カツカツというヒールの音を鳴らしながら向かうのは、この街を一望できる屋上。夜にこの屋上で独り、この街を眺めるのがスパローのリーダーになってからは日課となった。

    「……あの街のどこかではあの子達がアンドロイドを追ってるのかな」

    たった数日間だけ仲間だった、ふたり。私がスパローのリーダーにならなければきっとその縁は今でも濃く、そして強固なものだったはずだった。だが現実というものはそこまで甘くない。私は世間様から見ればアンドロイドと人間の共生を企むテロ組織のトップで、あっちは政府様が飼いならせない警察の狂犬。

    もし、ここの繋がりが少しでも漏れれば後ろ盾もないあの子達は簡単に切り捨てられてこちら側に責任を押し付けてくるだろう。こちら側……というか私としてはあの子達が来ることに対しての嫌悪感などはないが、何をされても怯えられ、アンドロイドの分際でと蔑まれ、仲間を看取らなければならないことはあの子達には酷だ。

    ミラでさえ、正直心配になることがある。あの子は言えば原始のアンドロイドで、自分さえ生まれなければ……と考えないわけがない。私としては生まれたことに罪がある、なんて馬鹿げた話だと思うが人によってはそう八つ当たり人間やアンドロイドがいてもおかしくない。

    人間は誰から生まれたことは分かっても、原始の時代には遡れない。それこそ神話の世界にまで遡らなければ分からない。だけどミラはミラ自身が原始のアンドロイドだから、お前のせいでという言葉が直に刺さる場所にいる。その刺さった矢の痛みを私が肩代わりはできないし、共感もできない。ただ分かったふりをしてその傷に、私なりの言葉を埋めてやるしかない。

    「私なりに頑張れてるかな……?」

    そう言ってなんとなく街の方へと手を伸ばしてみる。どうやらいつの間にか、雨は止んでいるようで、私の手を夜風が撫でる。

    「なら、丁度いいか……」

    もう外では着ることができないドロ課の制服のポッケから長方形の箱と古臭いオイルライターを取り出し、燻らせる。吸う度にぼんやりと先端が赤を帯びては、灰に帰る。

    「あ、ラキ。こんなとこに居た!」

    「ん?」

    振り返れば一切の呼吸の乱れもなくこちらを見るミラがいた。

    「どうしたの、何か問題?」

    「いや、そうじゃないけどなんとなく会いたいなって思ってさ」

    「あっそ」

    「え、冷たー。それが、探し回ってた相棒への態度なのぉ?」

    「別に疲れた感じじゃないし、本当に緊急の用事なら無線飛ばすでしょ」

    「まぁそうだけどさぁ……」

    ムスッとした表情をしながら、ミラは私の傍にやってくる。

    「疲れたなら、座れば?」

    「いや、ラッキーが立ってるのに座る訳には……ねぇ?」

    「うるさ、叩き割るわよ手鏡」

    「あっ!それは勘弁してよ~、ラキもボクがいなくなったら困るでしょ?」

    「いや、別に困らないけど。使える部品だけ回収してスクラップにするだけだし」

    「全っ然、冗談に聞こえないからね!!やめてね!!」

    「それは、あんた次第でしょ?」

    その言葉にはどうやら返す言葉が見つからないのか、ミラはそっぽを向いた。どうやら今日の口プも私が勝利を収めたようだ。数秒の沈黙の後にミラは何かを思いついたか、こちら側を向く。

    「あ、そうだ!ラキって煙草吸ってたの!?」

    「まぁ……年に数回程度だけど」

    「ねぇ!煙草って美味しいって言うけど本当なの?」

    「まぁ人によると思うけど。私は好きじゃない」

    「え?ならなんで吸ってんの?」

    「そういう気分だから。それだけ」

    「ふーん変なの」

    「変って……まぁあんたから見ればそうだと思うだろうけどね」

    そう言ってまじまじと煙草を吸う私を見つめる。

    「何?見世物なんかじゃないんだけど」

    「いや、煙草ってあれっぽいなって」

    「あれって何よ」

    「あのーあれ!お仏壇?の前に置いたりする緑っぽいやつ!」

    「あーお線香?」

    「それそれ!先が赤っぽいのに段々灰色になるの……似てない??」

    「まぁ、両方火をつけるし消えたところは灰になるからね」

    呆れながらそう話すが、ミラとしては大きな発見だったのか大げさと言えるくらいに喜んでいた。

    「そろそろ戻るわよ、明日も忙しいだろうし」

    「うん!頑張ろうね、ラキ」

    「頑張ろうって言ったって、やることは変わんないでしょ」

    そう言って新しい煙草に火をつけてそっと空に向けて煙を焚く。あの世とこの世を繋ぐものとしても使われる線香。人間がストレスの解消や気を落ち着かせるために使われる煙草。お線香の代わりに煙草を焚くなんて、仏様に泥を塗るのと同義だろうけど今の私たちにはきっと御似合いに違いない。

    「ミラ、あんたはいなくなんないでよ」

    「…………当たり前。ラキがボクのパートナーで居てくれる限りはいなくなんないよ」
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