おせりかと読むかりかおせと読むかはお任せします――おはよう大瀬くん。今日も早起きできたね。素晴らしい！
――私もまた、君に救われているんだよ。
――私は君の頭を撫でるっ！

　こんなクソゴミには勿体ないほどのピカピカの賛辞と笑顔を向けられる度に、嬉しく思うと同時に自分なんかが受け取ってもいいのだろうかと不安になる。気にし過ぎと言う方もいるかもしれない。あの方は人類を導くリーダーとなるお人。シェアハウスの他の住人の方のこともよくお褒めになっているから。
　不安になったことがないと言えば嘘になる。クソ吉ごときがおこがましいけれど。住人の皆さんも、一癖二癖あることを置いておけば素敵な方々だ。あの賛辞にも笑顔にもふさわしい。
　じゃあ、僕は？
　たとえ一瞬でも湧いて出てきた疑問に全身の血がさっと冷たくなった。僕なんかが皆さんと張り合おうだなんて。理解さんにもっと見てほしいだなんて。

甘い世界に２１ｍｇの毒を散りばめただ甘いだけのケーキを貪る。舌に残る甘味料と、胃に広がるくどさ。食べ慣れていないと嗚咽が出るような、そんな甘さだけが取り柄でしかないもの。

真っ暗なリビングに一人蹲り、呪詛の様な自己嫌悪を呟く。ごめんなさい、すみません、さようなら。誰にも届く訳のない言葉は、宙を舞い虚空へと消えた。

早く部屋に戻らなければ、誰かに見られてしまう。そう思えば思うほど嗚咽が漏れ、耳鳴りが酷くなる。過呼吸気味の呼吸器を無理矢理抑え込み、ただ静かに肩を振るわせる。

誰も来ませんように、そんな願いも虚しく、ドアの開閉音が聞こえた。こんな時間に誰が。そう思うも、誰にも自分の存在をバレたくなく、息を殺して丸くなった。

「大瀬くん」

自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。きっと、当てずっぽうに呼んだだけ。自分にそう言い聞かせ、無言を貫き通す。早く、早くどこかへ行って欲しい。でも、同時にこの不安症を誰かに救ってほしい気持ちもあった。