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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    かごめとりん

    ##犬夜叉

    *


    「あのねかごめさま」
    「ん?」
    「たぶらかす、って どういう意味ですか?」
    「た、たぶらか……」
    「?」
     誑かす。
     一体どこでそんな言葉覚えてきたの。小首を傾げる妹のような娘にかごめは唸った。
    「たぶらかす、っていうのは……」
     うぅん、なんて言ったらいいんだろう。
     彼女は困った顔をして考えを巡らせる。現代にいた頃もそういった言葉の類からは縁遠い。
     相手が学友であれば説明は容易い。それはね、悪い人が嘘を言って誰かを騙したりすること。でも、どちらかというと男が女の人を誘惑する感じよね? と説明することはできるが、目の前で縄を縒(よ)る可愛らしい年少者にはそんなことを説明しても謎が深まるだけだろう。
     ほら、あの映画で言うと……とか。漫画なら……と言ったって彼女には伝わらないのだから。
    「かごめさまも知らないの?」
    「うーん。ねぇりんちゃん。それ、誰かに言われたの?」
    「……前に……旅の法師さまに言われたの。殺生丸さまが……りんをたぶらかしたんだ、って」
    「!」
     人間の娘でありながら禍々しいながらも美しい姿をした妖怪の元に在ろうとしたから。彼女の言う『旅の法師』でなくとも事情を知らない第三者から見ればそう思われても多少は仕方がない、のやもしれない。
    「その時、法師さまとても怖いお顔をしていたんです。……殺生丸さまのことなんて 知りもしないのに」
     沈んだ声でりんは俯いた。
    「まぁ……殺生丸ってほら、誤解されやすいから」
    「あんなにもお優しいのに?」
     だって殺生丸が優しいのはりんちゃんに対してだけじゃない。と言えばそれで終わりだが、彼女が見る殺生丸の姿と、かごめが見る殺生丸の姿は違う。
     優しいだけじゃない。慈悲深いお方、大きな慈愛を抱くお方、りんを心配してくれる、家族以外で『はじめて』のお方。りんの小さな口から奏でられる殺生丸に対する印象はどれもこれも、かごめが想像できるそれらからはかけ離れている。
     あーあ。これって、そういうことじゃん。
     前々から思ってはいたが、かごめはそこである一つの『可能性』が限りなく真実に近い答えであることに辿り着いた。
    「人間は……妖怪であれば誰でも憎い、って人もいるのよ」
     こんな可愛らしい身なりをして、こんな可愛らしい声をして。罪な女の子。
     かごめは静かに告げた。「どんな姿形をしていてもね」と。
    「どうして?」
    「……大事な人を殺されたり……傷つけられたりしたら。そう思っちゃうのよ」
    「りんは……妖怪より、人のほうが怖いです」
     ここの村の人たちは優しいけれど、それでもまだ武装した人間たちへの恐怖が消えることはない。
     目に見えた牙と爪を持つ妖怪よりも、同じような手足を持った人間の大人たちが下卑た笑みを浮かべている姿のほうがよっぽど怖いのだ。しかしかごめはそんな言葉に「一緒のことよ」と優しく語りかけた。
     坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。そういうことだ。
     そして振り出しへと戻る。
    「たぶらかす、っていうのはね。りんちゃん」
    「はい」
    「騙すこと。あなたが言った通り、法師さまは殺生丸のことを何も知らないからそう言ったのよ。りんちゃんが殺生丸についていきたいって思ったのは……りんちゃんの気持ちじゃなくて、殺生丸が『そうさせてる』んだって」
    「……そんなことないもん」
    「うん。私も楓さまも珊瑚ちゃんも……みんな知ってるよ。りんちゃんは本当にお義兄さんのことが好きだもの」
    「すき……?」
     幼い妹は聞き慣れない響きに手を止めた。
    「そ。す・き。私が犬夜叉のことそう思うのときっと一緒ね」
    「……かごめさまが……犬夜叉、さまを」
    「殺生丸もきっとそう思ってるわよ」
     だって、ねぇ。
     りんという少女がいつから殺生丸と行動を共にしていたのかは未だ教えてくれないが、少なくともかごめの知る限り『以前』の殺生丸といえば、刀の因縁があったとはいえそれはそれはもうひどいものだった。鉄砕牙のためならどんな手段も厭わない。奈落に利用されながらも利用したって構わない。
     人間なんぞ虫ケラも同じ、半妖もまた。
     一度命を失った犬夜叉の母親の魂すら冒涜するような妖怪だったのだ。それがいつからか、あんなにも丸くなっちゃって。
    「そうだと いいな」
    「そうよ、きっと。今度聞いてみて。……あっでも、それは絶対 二人きりのときにしてね」
     誰もいないところで、こっそりね。
     だって。
     何色にも染まっていない、純真無垢な人間の少女。
     それに誑かされたのはきっと 殺生丸のほうだもの。
    「かごめさま?」
     さっきからにこにこしてどうしたの? と尋ねるりんにかごめは笑ったまま、
    「いつかりんちゃんにも分かるわよ」
     とだけ答えたのであった。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

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    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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