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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    殺生丸一行

    ##犬夜叉

    *


     天空のさらに上。
     ふかふかと白く浮かび上がる雲のそのまた 上。殺生丸の毛皮よりも白く、脆く、柔らかい、掴み所のないそれの 上。
     あの果てには何があるんだろうだなんて考えたことすらある──けれどあまりに遠すぎて想像もつかない世界。
    「すごかったねぇ殺生丸さま」
    「……」
    「殺生丸さま?」
     常日頃から無表情を顔に貼り付けた殺生丸の表情はいつにも増して険しく、どこか不機嫌な気配すらある。
    「これりん。お前、自分が何をしでかしたか覚えておらんのか」
    「……だって、死んじゃったら……なにも分からないんだもん。邪見さまは死んじゃったこと、ある?」
     おかしな問答だ。
    「わしか? そりゃあわしだって一度くらい死んでおるが……ほれ琥珀、お前はどうじゃ」
    「え……おれは……おれも 死んだことはあるけど」
    「琥珀も死んだことあるんだ! じゃあみんな一緒だね」
    「一緒って……」
    「おそろい! おそろい! あ、でも殺生丸さまだけ仲間はずれになっちゃう。……それはやだなぁ」
     りんはみんな一緒がいい。
     阿吽の上で足をぶらりぶらりと揺らしながら娘は屈託無く言い放った。妖怪と人間。男と女。大人と子供。りんは指折り数えながら、「どれも違うなぁ」と困ったように呟いた。
    「なにが?」
    「殺生丸さまとりん、お揃いのこと……」
     琥珀は男。邪見は妖怪。それから──きっと、大人。
     じゃあ、りんは?
    「なんじゃい。お前ごときと殺生丸さまが同じことなんぞ、あるはずなかろう」
     殺生丸は生者。りんと邪見、そして琥珀は皆一度死した者。
     正反対の場所に立ち、本来決して交わることのないはずの存在。力ある者と力なき者。邪見の言葉にりんはそっかぁ、とやはり落ち込んだ様子の声を出した。
    「……でも、同じである必要なんてないだろ」
    「えぇ、やだよ。りんも殺生丸さまとお揃いがいい」
     月夜よりも美しいしろがねの髪と、灰燼のように薄汚れた黒い髪。
     一眼だけでは儚さすら覚える白い肌と、日差しをたっぷりと浴びた子供の肌。
    「そうかなぁ。おれはお似合いだと思うよ、りんと殺生丸さま」
    「……ほんと?」
     阿吽は振り返りながら不安げな表情を浮かべるりんに微笑んだ。
     そんな訳あるかい! と邪見は殺生丸の毛皮の上から叫ぶ。
    「殺生丸さまと一番お似合いなのはこの邪見! 邪見に決まっておろう! 苦節百年以上寝食を共にしてきたこの邪見こそが……あっ…………」
    「あ……」
     ここは 雲の上。
     足蹴にされた邪見は見事に毛皮から手を離し、白い白い空の中を落ちていく。
    「邪見さま、落ちちゃった」
    「阿吽!」
     これでは寝覚めも悪い。
     琥珀の命でぐんと高度を下げた阿吽は雲の中を突っ切り、金切り声をあげながら墜落していく邪見を器用に回収する。
    「りん! お前が余計なことを言うからだぞ! 危うくもう一回死ぬところだったわ!」
    「余計なこと言ったのは邪見さまでしょ、もう〜」
    「……邪見さまもりんも、本当に殺生丸さまをお慕いしているんですね」
    「当たり前じゃ! この邪見、もはや天生牙で二度と戻らぬ命であろうが殺生丸さまのためなら捨てて……あだっ 痛い、痛いぞりん!」
    「そういうこと言っちゃだめ! 邪見さまが死んじゃったらりんも殺生丸さまも悲しいよ!」
    「……そう……そうかな? 殺生丸さま、やっぱりわしが死んだら悲しんでくれる?」
    「そうだよ! だって殺生丸さま、邪見さまのこと大好きだもん」
    「…………そう?」
    「そう! じゃないと、殺生丸さまが毛皮に乗せてくださったりなんてしないでしょ?」
     りんもあの毛皮、乗ってみたいなぁ。
     うっとりとした表情の少女に琥珀は苦笑いを零す。「やっぱり、りんと殺生丸さま……おんなじところなんて、ないや。一緒にいても、全然お似合いなんかじゃないね」と見当違いな悩みを抱え始めた少女の頭を撫でると、
    「ばか言えりん。あの殺生丸さまと『同じところ』のないりんを連れているんだ。似合う似合わないじゃなくて……きっと、女で子供で弱い人間でも連れていくのはりん、世界でお前だけさ」
     と言ってやる。
     琥珀に妹はいないが、珊瑚から見た琥珀もだいたい似たようなものだったのだろう。今なら分かる。
    「ほんと?」
    「きっと」
    「じゃありん、お揃いじゃなくてもいい!」
     違うことにも意味があるのなら。
     興奮気味にくるくると表情を変えた末娘に琥珀と邪見は息を吐く。本当に、本当にあの殺生丸が過去にも未来にも連れまわす人間のひ弱な小娘はきっと彼女だけだと、どこか確信を抱きながら。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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