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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    三人娘

    ##半妖の夜叉姫

    *


     一服しようよ。
     とわの言葉に当然のようにせつなは「そんな暇などあるか」と言い切り捨てたが、今日は勝算がある。もろはが草太のカードで好きなだけ買い物し、更に日暮家から勝手に現代から持ってきたものは碌でもないもの──歴史の教科書とか──も多かったが、役に立つものも多い。
     これはきっと冷蔵庫から持ってきたものだろう。
     彼女は三つの缶ジュースを取り出した。
    「果物のジュース。飲まない?」
    「じゅーす? とわの家で飲んだやつか!」
    「そそ。おやつにしようよ」
    「……よっしゃ。せつなもいいよな!」
    「…………異論はない」
     その長い間の中でこの時代では決して味わうことのあできない甘味の誘惑と戦っていたのかもしれないが、言うや否や彼女は周囲を見渡してから木の根元に腰掛けた。
    「私これ好きだからさ、もろは持ってきてくれててよかった」
    「りんごは見たら分かったんだけどさ、他のは見ても味分からなかったんだ」
     文字は読めたって見たこともない果物の名前で。
     もろはも嬉しそうにせつなの向かい側に座り、とわが取り出した缶ジュースをしげしげと見つめた。そしてもう一つ、彼女が取り出したのはやはり奇天烈な色をした菓子袋。
    「はいこれ、グミもあるよ」
    「さっすが気がきくじゃねぇか!」
    「せつなはジュースどれにする? りんごかメロンか……えっと、これはグレープフルーツだけど」
    「……どれでもいい」
    「どれでもって……そっか。グレープフルーツは酸っぱくて、メロンは甘いよ。りんごは分かるでしょ?」
    「じゃあ甘い方。めろん? というやつをもらおう」
    「じゃアタシは酸っぱいほうもらうぜ!」
     それじゃあ私は余ったりんご。
     こうやって開けて、ととわが蓋を引き開けて見せると、せつなともろはは身を乗り出してそれをじっと見た。
    「すごいものだな」
     真似して二人がぷしゅ、と栓を開ける。飲み口を覗き込むもろはに端っこで指切らないようにね、ととわは笑った。
    「すげぇのなんのって。しかもこの絞り汁、腐らないんだろ?」
    「開けたまま置いといたら腐るけど、開けなければ何ヶ月かは大丈夫だよ」
     これもお歳暮でもらった残りだし、ととわは笑った。
    「本当はあの凍った箱に入ってるあいす? ってのも持ってきたかったんだけど、すぐ溶けちゃうからさぁ」
    「もろは、アイスまで持って来るつもりだったの? あんなに食べたのに?」
    「あんだけ食べても食べ足りないっての! とわはいいよなぁ、毎日食べ放題でさ」
     毎日たっぷり沸かしたお湯に入れて、ふかふかの寝具に包まれて、いつでも湯が沸いて……ともろはは指折り数えた。
     確かに戦国時代に生きていれば現代の暮らしは想像もつかない便利さに囲まれていることだろう。とわが映画で見る、自動車が空を飛び人々は恵まれた環境を求めて外宇宙を目指すようなものだろうか? 想像することもできない未来、そんなところだろう。
     そりゃあ便利だよ。
     便利だけど。
    「でも現代に……半妖なんてさ、いないんだよ」
    「!」
    「この時代みたいに物騒じゃないし、ジュースもアイスも食べれるけど……こんな髪の子なんてさ、いないんだ」
     人と同じじゃないと。
     みんなと同じようにスカートを履いて、みんなと同じように黒い髪の毛じゃないと目をつけられる。
     戦国時代みたいにそれぞれが好き勝手自由に、けれど自分自身に責任を持って生きていけるような世界じゃない。とわはグミの袋のチャックを開き、黄色いふにゃりとしたそれをもろはに渡した。
    「これは何味?」
    「スイカ。甘い瓜だ、せつなも食べる?」
    「あぁ。……ん、いいなこれは。甘いし……不思議な食感だ」
    「でしょ? スイカ味のグミなんて信じられない! って草太パパには言われたんだけど……」
    「握り飯などよりすぐに力が出そうだ」
    「って……そっちい?」
    「そーそ。この絞り汁も腹減って倒れそうなときには丁度いいな! こんなとこで飲んじまうの勿体無ぇぜ」
    「同感だ。とわ、まだ残りはあるか?」
    「えっと……多分。もろはがたくさん持ってきてたし……」
    「じゃあ決まりだな。あとは非常食にしちまおうぜ、こんな元気なときに飲んで食ったって無駄になるだけだ」
     そう言ってもろはは缶を傾けて中身を全て飲み切ると、空っぽになったそれを適当にポイ捨てしようとして──とわに阻まれる。
    「だめだよもろは、そんなところに捨てちゃ」
    「だめなのか?」
    「だめだめ。それに、洗って置いといたらまた使えるかもしれないし。せつなも飲み終わったらちょうだい。あとで洗っとくからさ」
     そもそもこんな缶はこの時代に本来あってはならないものだ。
     ポイ捨てさせるわけにはいかない、ととわはせつなからも空き缶を受け取った。こんなことならリサイクル術の本でも持ってくればよかった、と後悔してももう遅い。
    「さ、甘いもん食って飲んだしさっさと行こうぜ。賞金目指して頑張ろうぜ!」
    「分かったよもう……。……ねぇ、せつな」
    「なんだ」
     てくてくと歩き出したもろはの後ろに続き、とわはりんごジュースを傾けながらせつなに耳打ちする。
    「もしこれで報酬もらえてもさ……もろはと山分けだと賞金首のお金、足りなくならない?」
    「………………図られたな」
     ここまで来てしまってはもう後戻りはできない。
     やられたなぁ。とわはため息を零しながらも、楽しそうに前方を走るもろはに追いつくためにせつなと並んで駆け出した。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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