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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    殺りん

    ##犬夜叉

    *


     ぐらり、ぐらり。
     小さな口の中で繰り広げられるは大きな攻防戦。
     りんの舌がぐい、と白い歯をつついては首を傾げ、「うーん」と悩ましげな言葉を零す。その繰り返し。
    「……なにをしている」
    「……歯……」
    「歯?」
    「抜けそうで抜けないの。ほら、ここ」
     んあ、とりんは殺生丸に向かってめいっぱい大きく口を開いてみせた。
     牙と呼ぶにはか弱過ぎる白い歯並びは整然としていて、唾液が糸を引く少女の口内は殺生丸がよく知る犬妖怪たちのそれとは大きく異なる。こんな平坦な歯で人間どもは食事を摂るというのだから、硬くて歯の立たぬものは煮るなり焼くなり調理することによって手を加えねば食べられないというのだからあまりに脆い。
     顔を近づけて匂いを嗅げばそこに広がるのは微かな血の匂い。ぐらついた下の歯の根元から滲む赤がその正体に違いない。殺生丸とて何百も年月を遡った幼い頃にはこうして歯も生え変わりはしたが、もう遠い遠い昔のことだ。
    「放っておけば抜ける」
    「でも、なんか気持ち悪くって」
    「ならば抜け」
    「ん」
    「……なんだ」
    「……抜いてくれないの?」
    「……自分でしろ」
    「だってりん、自分の口の中見えないもん」
     どうなってる? とりんは短い舌でつんつんと歯並びを裏側からつつきながらも殺生丸の前で大口を開け続ける。
    「人の歯を抜く趣味はない」
    「じゃあお願い。抜いて?」
    「……」
    「抜いてよ殺生丸さま! りん、このままじゃ気になってどうしようもないよ」
    「……」
     承った、とも分かった、とも言わず、しかし殺生丸はすっと長い指をりんの目の前に突き出した。答えは即ち応。
     く、と指先に力を込めればぐらついた歯は容易く身を揺らす。
    「んっ……」
    「……」
     右へ、左へ。
     ちょっと方向を変えるだけでりんの小さな歯は不安定な歯茎の上を踊る。
    「へっひょうまうはま……」
    「……」
    「……ひゃの、」
    「……」
    「……あのぉ……」
     ぱっと指が離れ、りんの口内から長い指が引いていく。小さな歯は以前として口の中に居座ったまま。
     解消されない違和感に少女は頬をさすりながら、結局歯を揺らし遊んだだけで満足して興味を失ってしまったような顔をした殺生丸を見上げた。もしかして、と言いながら。
    「なんだ」
    「殺生丸さま、遊んでみたかったの?」
    「……」
    「やっぱりそうなんだ。面白いよねぇ、ぐらぐらの歯って。りんも揺らして遊んじゃう」
    「……」
    「でもそれなら早く言ってほしかったなぁ」
     抜いてほしかったんだけど。
     りんは見事に心中を言い当てられたとばかりに渋い表情を作った殺生丸のことなど気づかぬまま、再び己の舌でぐらりぐらりと揺れ遊ぶ歯を弄び始めた。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429