本誌ネタバレSS「ねぇ、安室の兄ちゃん。ボクトイレに行きたい」
「場所が分からないのかい?」
「うん、安室の兄ちゃんは分かる?」
「あぁ、連れてってあげるよ」
「ありがとう」
キッドキラーと呼ばれ鈴木次郎吉会長や中森警部に一目置かれている少年の年相応の姿に、険しい顔をしてキッドを捜索していた隊員たちもほっこりする。
「で、誰に化けているのか分かったのかい?」
「……安室さんだって分かっているくせに」
「まぁね。こうして僕と抜け出したということは当然ティアラが消えた謎も解けたんだろう?」
「ダブルリフトだよ」
「ダブルリフト? あぁ、そういうことか……」
「安室さんも分かった? じゃあまずは風見さんを迎えに行こう」
「風見、風見!」
「ん……降谷さん?」
二人の予想通り、やはり風見は安室と別れて警備体制を確認している時にキッドに眠らされていた。
「す、すみません。帰っていいと言われたのに自分が最後まで居たいと言ったばかりに……」
「いや、逆に君に変装してくれたおかげで怪盗キッドの変装を見抜けたよ。それより急いで君に準備してもらいたいものがある。誰にも見つからないようこっそりとね」
風見を探しながらコナンと立てた作戦を簡潔に伝える。
「え? 私が降谷さんに、ですか?」
「あぁ、彼が子供だましだと言ってバカにしたダブルリフトで今度は僕たちが彼に一泡吹かせてやろうじゃないか」
「はぁ……」
「はい、風見さん。安室さんに帽子借りたらこれを帽子のツバに付けてね」
「これは?」
「スピーカーだよ。じゃあ風見さんは安室さんが戻ってくるまで誰にも見つからないように隠れててね」
目覚めたばかりでまだうまく状況が飲み込めてない風見をその場に残し、二人はキッドに行動を起こさせるため再び現場に戻る。
「はい、安室さん」
「ありがとう。本当にいいのかい? コナン君」
「何が?」
「いや、何でもないよ」
コナンの曇りのない表情に探りを入れるのがバカらしくなった安室は、コナンと協力して怪盗キッドを捕まえるためとっておきの道具をありがたく借りることにした。
「……参ったな」
これから決戦だというのに、手のひらに収まる彼からの信頼の証につい頬が緩んでしまう。雪に閉ざされた教会の事件で一分にも満たない僅かな時間とはいえ腕時計を預けられたことにも驚いたが、いくらキッドを捕まえるためとはいえこうもあっさり大事な秘密道具を貸してくれるとは。
「止めときな……」
通話状態にしていたスマホから聞こえてきた合図に安室は探偵団バッチのスイッチを入れた。