あむこぬいを見つけた安室さんとコナン君のお話(うわ、このぬいぐるみ安室さんにそっくり)
ずっと楽しみにしていたミステリーの新刊を無事ゲットしてウキウキしながらたまたま通りかかった店先で見つけてしまったのはなかなか会えないコナンの恋人、安室透にそっくりなぬいぐるみ。
当然ぬいぐるみなので目はまん丸とした黒目だし手足は短かいし本人に比べるとかなり可愛らしい姿だが、特徴的なくせ毛はそっくり再現されていた。しかもそのとなりにはこれまたコナンにそっくりなぬいぐるみも並べられている。
(なんかこれだとオレと安室さんが結婚するみたい……って何考えてんだオレ!)
二体とも衣装はフォーマルでしかも胸元には花が飾られている。まるで結婚式に参加するような衣装にコナンは一人ぬいぐるみの前で百面相をしていた。
(これ、安室さんに渡したら迷惑かな……)
めったに会えないコナンの恋人は訳ありで写真は一枚もないしメールも内容を確認したらすぐに消している。仮の姿である江戸川コナンと安室透は役目を終えればその存在は消えてしまう。せめて二人に似ているぬいぐるみを手元に置いておくくらいの我儘は許されてもいいだろう。
両手で抱きかかえるほどのサイズであればさすがに購入は諦めるところだが、コナンが見つけたぬいぐるみは片手にちょうど収まるサイズ。これなら机の引き出しにしまっておけば蘭やおっちゃんに見つかることもない。幸い今日は本を買うためにお金は多めに持ってきていたため、見つけたぬいぐるみを買うお金は十分にあった。コナンは念のため辺りを見渡し誰も知り合いがいないことを確認すると、そのぬいぐるみを持って急いでレジへ向かった。
「コナン君、実は君にプレゼントがあるんだけど」
「えっ、安室さんも?」
「安室さんもって、コナン君も僕にプレゼントがあるの?」
「あっ、いやボクのは全然大したことないから安室さんからどうぞ」
安室の家へお泊りの日。バッグの底に先日買ったぬいぐるみをこっそり忍ばせたもののどうしようか迷っていると安室からの声かけにうっかり口を滑らせてしまった。安室が見逃してくれるはずがないことは短い付き合いの中でも分かっているので、コナンは仕方なく腹を括るとまずは安室からのプレゼントを受け取ることにした。
「この前お店の前を通りかかった時にたまたま見つけたんだけどね」
「えっ、これって」
そう言って安室が渡したのはこの前コナンが買ったぬいぐるみと全く同じものだった。
「僕に似てるなって思ったらつい年甲斐もなく買ってしまってね。僕の代わりというか、よかったら貰ってくれないか?」
「あ、ありがとう……」
あまりのタイミングの良さに戸惑うコナンに迷惑だったかと勘違いした安室が残念そうに呟く。
「やっぱりコナン君には子供っぽいよね、ごめん」
「違う、そうじゃなくてあの……ボクもこれ安室さんにあげようと思って買ったの!」
コナンは慌ててバッグからこの前買ったぬいぐるみを取り出した。目の前に差し出しされたコナンそっくりなぬいぐるみに、安室も驚いた表情でぬいぐるみを見つめた。
「コナン君、これ……」
「ボクもたまたま見つけて。黒縁眼鏡とか髪型とか、なんとなくボクに似てるなって思ってつい……」
「これは、僕が貰ってもいいのかな?」
「いいよ、そのつもりで買ったから」
「ありがとう」
「一応言っておくけど盗聴器は仕掛けてないから、糸解いて解体したりしないでよね」
「しないよ、そんなこと。僕も何も仕込んでないから、コナン君こそ大事にしてね」
「わ、分かってるよ」
無事渡せてほっとした気持ちとコナンと安室が同じことを考えていた嬉しさと気恥ずかしさで、二人とも真っ赤になったまま黙り込んでしまう。その空気に耐えられず先に口を開いたのは安室だった。
「あの、申し訳ないけど……もう一つ貰ってくれる?」
「え、もう一つ?」
安室がもう一つと言ってコナンに渡したのはコナンにそっくりなぬいぐるみだった。
「その、僕にそっくりなぬいぐるみとコナン君にそっくりなぬいぐるみが並んで売っていたからつい一緒に買って。迷惑じゃなかったらこれも一緒に貰ってくれないかな?」
「えっと、じゃあボクも安室さんそっくりのぬいぐるみ一緒に買っちゃったから、今度持って来ていい?」
「えっ、コナン君も?」
「……悪い?」
「全然。やっぱり僕たちすごく気が合うね」
安室は嬉しそうにコナンを思いっきり抱きしめる。
「ちょっ、安室さん。ぬいぐるみが潰れちゃう」
「あっ、ごめんごめん。嬉しくてつい」
「ボクも。でも本当にいいの? ボクの手元に安室さんそっくりのぬいぐるみを置いてても」
「たまたま僕に似ているだけだろう? 写真はダメだけどそれくらいならなんとでも誤魔化せるさ」
「うん、そうだね」
思わず買ってしまったものの二人にそっくりなぬいぐるみを持っているのは迷惑かもしれないとずっと不安だったので、安心したコナンはようやくいつもの笑顔に戻った。
「コナン君からのプレゼントはすごく嬉しいけど、セットでもらうのはちょっと複雑だな」
「どうして?」
「だって、その子たちはずっと一緒にいられるだろう? 僕とコナン君はたまにしか会えないのに」
本気で拗ねた表情で愚痴る安室にコナンはクスッと笑うとぬいぐるみたちを傍らに置いて安室にぎゅっと抱きついた。
「もう、ぬいぐるみにヤキモチ焼かないでよ。安室さんにはボクがいるでしょ」
「うん、そうだね。変なこと言ってごめんね」
目と目が合った二人の唇は自然と重なる。その様子を二体のぬいぐるみだけが笑顔で見守っていた。