本誌ネタバレ安コSS「いらっしゃい、コナン君」
「お邪魔します」
いつも通りの笑顔といつも通りのアイスコーヒーで出迎えてくれる。その場でカメラと盗聴器は踏み潰したから、見つかったことには気付いているだろうに、やっぱり白を切り通すつもりなのかと心の中でそっとため息をついた。
念のため、光彦たちには身に覚えのないものが送られてきたら開封する前に連絡するよう伝えておいた。まぁ一度バレた手口をもう一度するとは思えないが。
灰原には内緒で博士に調べてもらったが、市販に流通しているものではないし、犯人に繋がるような痕跡も何一つ見つからなかった。組織の可能性もゼロではないが、組織ならこんな回りくどいことはしない。オレと光彦のことを知っててこんなことをするのは……
「安室さん、もう二度とボクの友達を巻き込まないって約束してくれる?」
「何の話か分からないけど、蘭さんと毛利先生のことなら……」
「違う!」
安室の発言を遮るようにコナンは安室にぎゅっと抱きついた。
「安室さんの仕事は理解しているつもりだよ。ボクになら何してもいいからもう二度とあいつらを巻き込まないで」
「へぇ……で、コナン君は僕のことを疑っているのに、僕の家に一人で泊まりに来たんだ?」
「安室さんのこと信じてるから。だって、ボクと安室さんは付き合っているでしょ」
「うん、そうだね。大好きだよ、コナン君」
「ボクも安室さんのこと好きだよ。だから」
「さっきコナン君、ボクになら何をしてもいいって言ったよね?」
「うん、言ったけど……」
「僕、コナン君に教えて欲しいことがたくさんあるんだ。コナン君に自白剤飲ませてもいいかな?」
「え、うむっ」
急な口付けにコナンは慌てて距離を取ろうとするが、子供の体は大きな両腕でがっしりと抱きこまれていた。
(くそ、ビクともしねぇ)
「ふぁ、んんっ」
足りない酸素を求めて小さく開いた口を安室が見逃してくれるはずがなかった。喉の奥にコロンと何かが押し付けられる。舌の動きを封じられ、喉の奥へ唾液を流し込まれたら飲み込むしかなかった。コナンの喉がコクンと動いたことを確認するとようやく長い口付けから解放された。
「飲んじゃったね。薬が効き始めるまではまだ時間があるし、まずは何から聞こうかな」
「……」
言葉とは裏腹にコナンの呼吸が落ち着くよう背中を撫でてくれる手はひどく優しい。すぐにでも反論したいコナンだったが、喋れない代わりに安室の服をぎゅっと握りしめることで抗議に意志を表した。
「そうだな。まずは初恋の話とかどうかな。付き合うのは僕が初めてでも、初恋は違うだろう?」
「……」
「あぁ、まだ薬が効いていないのかな? それともまだ息が整っていない? じゃあ先に僕の初恋の話をしようか。コナン君のことばかり聞くのもフェアじゃないしね。僕の初恋はね」
「……うそつき。さっきの、ただのミントタブレットでしょ?」
「どうしてそう思うのかな?」
「味でバレバレだよ。せめてビタミン剤とかさ、もっと他になかったの?」
「ちょうど手持ちがミントタブレットしかなくてね」
ズボンのポケットからケースを取り出して「食べる?」なんてのんびりした声で聞かれてコナンはイラっとした。
「いらない。悪ふざけならいい加減にしてよね」
はぁ、とため息をついて安室の膝から降りようとするコナンをぎゅっと抱きしめると、ベッドへ押し倒した。
「まだ終わりじゃないよ、コナン君」
「ちょっと、安室さん? いい加減……」
「君の推測通り、最初から自白剤なんて飲ませるつもりはなかったよ。でもね、コナン君。情報を吐かせる方法は自白剤だけじゃない。今からそれを教えてあげるよ」
初めて見る笑顔は、それがバーボンであるとコナンは本能で察した。