悪夢(仮タイトル) ざわざわとした周りの声も掻き消してしまうほどの土砂降りの雨の中、その音にすら負けないくらいの、大きな誰かの泣き声が木霊していた。
最初に見たあの悪夢の舞台は、スクランブル交差点のど真ん中だった。
「あああああ……!!!!!」
それにしたってこの五月蝿い声は誰のものだろうか。そんなに声を張って、喉を痛めてしまいそうなものだが。誰なのかも判別がつかぬほど、そいつは絶叫していた。
「あぁぁぁあッ……!!!」
ほら、声が掠れて更に聞くに堪えないものになっていく。そろそろこの声の主を落ち着かせないと。見つけて、はやく声をかけてやらなければ。
でも、声が出なかった。いや、思うように声が出ないと言うべきか。既に喉は開いていて、声は出せているはずなのに。聞こえてくるのは違う、自分じゃないみたいな声だった。最後の方はもう、ほとんど呻き声のようなものだった。
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