ウス誕2023/中編真祖特注という装飾が施された城内は普段の姿が見る影もなく、とてつもなく明るく飾り付けられていた。
「……ま……眩しい……」
約束の21時。来訪のベルを鳴らすと同時に招き入れられたエントランスを前に、ノースディンは開口一番小さく呟く。それに同意する、もとい、同情するかのように眉を八の字に落とし、ドラウスは乾いた笑い声を上げた。
「うん……ほんとに……」
「……何が……いったいどうしてこんな……」
「なんか……この間見たヌーチューブ動画でやってたのをやりたかったらしい…」
「……ヌーチューブ……」
「ははは……一昨日、ね……型を取られてね……人型等身サイズの電球だってさ…」
「ああ……だからあんなにでかいのか…」
「……うん……」
「………そうか……」
元凶が元凶だからこそ異論も否定も抗議もできない。ノースディンは言わんとした事の半分以上を飲み込みつつ気を取り直すと、改めて「ドラウス」と本日の主役に声をかけた。
「ミラ嬢からお前への贈り物を預かっているぞ」
「ああ!聞いてるよ!感謝する!」
十分な休息を取らせた使い魔は、これまた主に似て忙殺されてるのか、陽が落ちるとほぼ同時に飛び立っている。その託された贈り物の包みを小脇から差し出すと、ドラウスはこの上なく嬉しそうな笑みを浮かべた。
「よかった。ミラ嬢とは連絡がついていたんだな」
「連絡?」
「ああ、あいかわらず忙しそうでな……お前に連絡はしておくと言ってはいたが、少々気になっていたんだ」
「そうか…」
「本当ならばお前に直接渡したいと言っていたよ」
「……そうだな……」
「………」
「いや……これ以上辛気臭いのはやめよう……ノース、今日はドラルクもポール君も呼んだんだ!楽しい夜になるぞ」
ふと浮かべた憂いを隠し、「こっちだ」と広間へと案内がてら歩きだすドラウスを見遣り、ノースディンは僅かに心が痛む。
本来ならば一番いてほしいはずの人物がいないのは寂しいことだ。一人でいる時間を好む自身とて、それは理解している。だがその感情を払い、明るく振舞おうとする者にかけるべき言葉は何か。
「ドラウス」
「なんだ?」
「……今日はお前のための記念すべき日だ。ミラ嬢の代わりにはならないかもしれないが、友として……盛大に祝おうじゃないか」
「………ありがとう、ノース……私は良い友を得たな…」
「これからもそうであればと願うよ」
「謙遜するな。私とて、いつもそう思っているさ」
いつもの笑みが戻ったように見える。最愛の友のため、微力ながらも自身にもできることがあってよかったと、ノースディンはつられて笑みを浮かべた。
「じゃあ、行こうか。みんな待ってるんだ」
上等な床材の敷き詰められた廊下を、招かれるままに共にその歩を進めていく。
「そうだ、ノース!ミラさんのプレゼント、なんだと思う?」
「私が聞いていいのか?お前のためのものだろう」
「そうなんだけど…」
「お前がとても欲しがっていたとは聞いている。だがあえて私がそれを探るのは野暮じゃないか?」
「そ……そうなんだけど……」
「だがお前がどうしても話したいというのなら、私は耳を傾けるつもりだ」
「よかった!実はこれ……俺にも効く媚薬なんだ!」
「なんて?」
「ほら……前に作ったやつ……俺に全然効かなかっただろう?思いきってミラさんに話したら、こんなのがあるよって」
「ちょっと待て」
「ミラさんは大丈夫って言ってたけど……本当に効くのか心配で…」
「おい」
「なあ、ノース。ちょっとだけ試しに使ってみるから、練習相手になってくれないか?」
「断る!!」
「え、えっ?なんで?!」
「二度と使わないって念押したはずだぞ!」
「大丈夫だって!俺が使うだけだから!」
「馬鹿ウス!大問題だろ!」
「頼む!無理は承知の上で頼む!」
「無理なら頼むな!」
「頼む親友!お前しかいないんだ!」
「ミラ嬢のお墨付きなんだ!私で試さなくても効くに決まってるだろ!」
「お願い!一口だけだから!ひとくち!ノースは飲まなくていいから!お試し!お試しだから!」
「ドラウ…」
「頼む!このとおり!一回だけ!お願い!親友!ヘイ!親友!!ヘイ!!!ヘイ!!!!!」
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