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    waremokou_

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    12月を過ごす雉ド、その2。
    不定期更新です。ドが雉を好きなので、まあこういう日もある。

    ##12月の雉ド

    2.見惚れる「ちゃんと片付けるからさ、ダメかな」
     クザンがぎゅう、と抱えるそれを眺めながら、この男が何を今更遠慮などするのかとおれには理解できない彼なりの線引きに少し驚く。そんなことより、いくらベビーがうちをチリ一つ許さずピカピカに磨き上げてくれているとは言え素足でフローリングの上を歩くのはやめろと言いたい。万が一にでも何か尖ったものが落ちていたらどうするつもりか、この男は折角用意してやったにも関わらずルームシューズをすぐに脱ぎたがって困る。そんな困った男が抱えた——恐らく、ヨガマット的なものだろうそれを再び見下ろす。この男がヨガを。あまり想像はできない。瞑想、というより昼寝が似合う男の印象があるからだろうか。
    「ここはもう、お前の家でもあるだろう。好きにすればいい」
     少し、気持ちがいやにざわつくのはきっと、この男がする不必要な遠慮のせい、だろうか。クザンがおれに許可を求めるのは、ここがおれの所有する場所であるからで、それはクザンにとっておれを尊重したが故のことだろう。それも理解はできる。この男は、かつての記憶を有しながらそれでも〝今のおれ〟を理解する珍しいヤツだったから。だからこそ、だろうか。おれが生半可な気持ちでクザンにこのマンションのキーロックを解除できるようにしたわけじゃないと。まるで自分の居場所は他にあるのだと突きつけられているような気になるからだろうか。
    「だが、知らなかったな。お前がヨガを?」
     昼寝するならベッドかソファにしろ、と言いかけた言葉を飲み込んで。するとヤツまで少し意外そうに笑って、ヨガなんかやってたら寝ちまうよと言う。自覚があるようで何よりだが、では。
    「いやあ、ほら。おれってば現場遠のいちゃったじゃない。優秀だから、出世しちゃってさ」
     デスクワークって、身体が凝っちゃってしょうがねえのよ。そんな風に戯けて言うが、クザンは実際若くして警視長に上り詰めた実績がある。ガープが自慢げに言っていたからよく覚えている。昔から飄々と振る舞うくせに、妙に頭のキレるヤツだと思っていたから今更驚きはしないが。クザンのヨガマットは、そんなデスクワークで鈍った身体を動かすためのものだという。いくらものぐさとはいえ、この男もさすがにぐうたらばかりは飽きるらしい。だがものぐさゆえにジムへ行くのも、トレーニングマシンを買うのも性に合わない。それで、このヨガマットひとつあればできる筋トレと、散歩がてらのランニングが、たまにできればいいのだそうだ。クザンらしい割り切ったリフレッシュが妙にハマっていて、つい口角が緩む。さっきまでの、ささくれのような小さなむず痒さが今はもうない。この男と共にいるのは、そういう穏やかさがあった。
     一応、この家にはゲストルームが一つあった。ローや麦わらの小僧が転がり込んできたり、ヴェルゴと徹夜で仕事をした時なんかに使っていたものだが、今はクザンの私室になっている。が、一番広いのはこのリビングで、さらにいうとクザンの私室はカーペットばりで、このリビングがフローリング。
    「フローリングの方がいいんだよね」
     そういうクザンが欲しがるのであれば、物置きにしてしまっている部屋をひとつ開けて、クザンが気にいる——そして彼が飽きて、また気まぐれにその気になる時のために——ようなトレーニングようの部屋に変えても良かったが、丁寧に断られた。リビングで適当にバラエティを流しながら、なんとなくやるトレーニングだけで十分だという。専用のトレーナー(ヴェルゴ)に、会社近くにあるジムの年会費を払っているおれからすれば信じられないほど適当で、そこがクザンの可愛いところだと言葉にはせず噛み締める。余談だが、元スペイン海軍に所属していたヴェルゴのトレーニングは信じられないほど厳しいし、普段の優しい紳士・ヴェルゴの顔をしたまま殺されそうなほど追い込んでくるのはなかなか刺激的な経験だ。ドフィならできるよ、なんてジムじゅうの人間を骨抜きにしそうな笑顔で笑って、あと一グラムで押しつぶされそうなおれを見下ろすヴェルゴはちょっと楽しそうにも見える。意外と、サディストなのだ。あの男は。

     そういうわけで、この家にはクザンが使う筋トレ用のヨガマットがある。クザンに〝その気〟が訪れていないだけ、というわけではないらしく自分が不在の間にそれは何度か使用されているらしい。らしい、というのは例えばヨガマットの巻いたそれが移動している、といった様子さえ見た事がない——マットはクザンが、リビングの景観を損ねるという理由で自室に仕舞っている——代わりに、プロテイン・シェイカーが食器カゴに干されているから、おれの予想でしかない。リビングという共有スペースであることをクザンが配慮してくれているのはすぐにわかった。なんだかんだ、あいつはおれに甘い。見たことがなかった。今の、今まで。

    「あ」
     おかえり、と。それを言う合間に漏れる荒い息に、胸の内側が擽ったくなる。そんなわけ、と疑う自分と、認めてしまえ、と諦める自分が頭の中でやかましく言い合っている。おれは、ちゃんといつもみたいにただいまを言えただろうか。家の中はいつもこんなに暑かっただろうか。コートを脱ぐ手が、なんだか妙に痺れて感じた。そんな馬鹿な、と疑う自分が荒れ狂う。無意識に、唾を飲んでいた。
    「先、風呂入っちまいなよ」
     おれはまだかかりそうだから。そう言って、床に落ちていたタオルで雑に汗を拭う仕草に目が、離せなかった。心臓が暴れ回っている。耳の奥で、血がざあざあと騒がしく駆け巡っている音が聞こえる気がした。じわり。マフラーを握った手に汗が滲んだ。クザンがこうも息を荒げた姿を、かつてでさえ見た事はなかったはずだ。普段、ゆったりとした——正しく表現するなら〝だるっとした〟が正しいが——格好に隠された、クザンの身体はこんなにも、妙な色気のようなものを感じさせただろうか。セックスの時でさえ、こんなに激しく息を乱し、汗を滲ませた姿を見たことはなかったはずだ。ともすれば食い入るように盗み見てしまいそうな自分を律し、自分の内側に燻る騒がしい感覚を掻き消すように意識を逸らそうと努力はするが、うまく行く気がまるでしなかった。さらに何が悔しいって、そんなクザンから目を逸らすことが惜しいと思ってしまう自分がいることだ。
    「——エッチ」
     だから、そんなふうにおどけるクザンに、おれが何を言い返せただろう。この、珍しく漲る姿を見せるクザンに、おれはどうしようもない劣情を感じていたのだから。
    「うっせー……」
    「あら、珍しい」
     ドキドキしてくれるなら毎日しちゃおうかな。そう言うクザンに反論もできない。この男の、珍しい姿に取り乱す自分を冷静に取り繕うことさえできない。こんなにも、他人に対して疼くような感覚を覚えたのは久しぶり——いや、初めてのような気がする。勿論、体を許していいと思える程にはクザンを愛しているし、この男はかつてからそうであったようにだらしなく見えるが見目も良く、華のある男だ。少しアンニュイな印象だがそこが色気を感じさせるし、低い声は魅力的で、警察官らしく引き締まった身体は健康的で、男女問わず美しく感じる男だろう。今でこそ、自分はそういった欲とは無縁の暮らしをしているが、かつてであればある程度女の相手はしてきた。無論、時代が時代であるだけに気を許せない張り詰めた中での行為ではあったが。女相手に殺されるようなヘマこそするつもりはなかったが、ヴァイオレットや、シュガーのように非力ながら厄介な能力者がごろごろといる世界で、無防備に肌を晒しあう寝台の上において女は男よりアドバンテージを持つこともあり得る。トレーボルたちが選び抜いた商売女だが、どこに敵のスパイが紛れているともわからない。ヴァイオレットといる時でさえ、ひりつく緊張を感じていた。ことが済み殺して仕舞えばそれでいい。だが最中に厄介ごとを起こされるようなヘマはできない。女遊びは、王としての執務の中でも気乗りしない、面倒な作業でしかなかった。
     それが、どうして今。クザンの、見慣れぬ姿におれは、自分でも飲み込んだことのない疼きを覚えている。これじゃあ、まるで恋に夢をみるデリンジャーやベビーと変わらないじゃないか。そう自覚すればもう、じわじわと顔に熱が集まるのを止められない。
    「一緒に風呂、入る?」
     まるで見せつけるように、いつもより汗でしっとりとしたウェービーな髪を掻き上げながらクザンが言う。おれは、逃げるようにバスルームへ駆け出し閉じこもることしかできなかった。
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    waremokou_

    DOODLE12月を共に過ごす雉ドのはなし。帰り道でデートする二人。
    4.ふたりぼっちイルミネーション 共に過ごせる久々の休暇をどのようにして過ごすことが最適かは、おそらく未だ解明されていない問題の一つだろう。いよいよ明日に休暇を控え大量の仕事を終わらせて。互い、夕飯さえ別々に摂りあった上で僅かな時間を惜しむようオフィスの下まで迎えに来たクザンのことを、おれは苦しいほど可愛らしいと思ってしまう。面倒見がいいのだろう。それはガープから聞くクザンの、署内(今は庁内だが)での話を聞くだけでわかる。自分は面倒だからと部下に仕事を割り振る態度のくせに、それは後進育成のための援助であったり。かつては海軍大将であったために彼を師と仰ぐ者もいれば、相見え(その頃には〝元〟海軍大将であったが)た時には瀕死のスモーカーを庇うような素振りもあった。おれが思うクザンの美点であり悪癖である〝飄々とした態度〟のせいでそう見られることは少ないが、クザンという男は基本的に熱い正義を持った男なのだ。これがクザンの気紛れで続いている関係であることはわかっている。それでも、こうしてこの男に甘やかされるたび、凝り固まった自分の世界が少しだけ、色付いてさえ見えるのだ。ヴェルゴともトレーボルとも、ガープとも、それから——センゴクや、ツルとも違う愛の形を、この男はおれに教えてくれる。教えてしまった。知ってしまった。寒い時期のせいだろうか。クザンが軽く上げた手に、鼻の奥がつんと痛む。セクシーな唇がにぃ、とだらしなく歪む姿に、らしくもなくゾクゾクする。たまらなかった。まだオフィスの中で、ここではスマイル・カンパニーの代表として振る舞わねばならぬ場所であるはずだと理解しているのに。ひと気のない夜のオフィスが。〝あとは片付けておくから〟と背を押すヴェルゴが。〝いい休暇を過ごせよ〟と笑ったトレーボルが。かつては王であれと、そうすればもう誰も何も取りこぼさず強く生きていけると教えてくれた二人が、今は幸せたれと教えてくれる。コートを掴み、急く足が駆け出すのも構わず、クザンの元へ向かう。
    2050

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    DOODLE12月を過ごす雉ド。その3。
    社畜のド。
    3.ルームシェアとは言いがたい 共に暮らそう、そう思ったきっかけはお互いの時間がなかなか擦り合わないためだった。だからたとえば、夜共に眠るだとか、言葉を交わせなくても日々の生活の中に相手の存在を感じられるような、そんな時間があればあの頃よりずっと近づいていられる。そうおもって始めた暮らしだったはずだ。
    「心配—— は、無用なんだろうけど、さ」
     寂しいなんて、柄じゃないだろう。そう自分を誤魔化すように弱気な気持ちをコーヒーで流し込む。最後に顔を合わせたのはいつだったろうか。ここ最近の〝スマイル・カンパニー〟は景気がいいのか、ドフラミンゴは常に忙しそうにしていた。年末が近い、というのもあるだろう。かくいうおれも、こういった時期は犯罪率が高くなるせいでいつもよりずっと忙しくしなければならなかった。現場に出ていた頃に比べればきっとマシなんだろうが、それでも管理者としてすべきことは多く、体を動かすことさえできずデスクに縛り付けられるのはなかなかに堪える。信頼してくれるガープさんやゼファーせんせいの顔を潰さないためにも、最低限は真面目に仕事をこなしておく必要もあるが、それでも座り仕事はやっぱり性に合わない。ドフラミンゴはその点恐ろしいほど真面目で、几帳面だ。昔からそうだったのだろう。聞いた話、あの男は国を乗っ取り、海軍に隠れ悪どい商売をわんさとやり放題していたようだが、ドレスローザはそれでも〝表向き〟平和で、国政のうまく成り立った国だった。その上で、元・四皇であるカイドウを相手取り、様々な闇市場に武器や戦争の火種、情報、果ては悪魔の実を次々と仕入れ、それを非常にうまく売り捌き、活用していたのだ。それはそんじょそこらの悪党が見様見真似でできる芸当ではない。面倒な取引や営業もあるだろうそれを、ドンキホーテ・ファミリーの幹部がどこまで関与していたがわからないがドフラミンゴほぼ一人の知恵と手腕が生んだものだと言うのだから、元々相当頭のいい男なのだ。そしていっそ〝異常〟と称するに相応しいほどの根気と、集中力まで持ち合わせている。目的のために一切の妥協を許さず、自分を殺してまで成し遂げようとする執着。ひとえに〝家族を守り、害となる世界を破壊する〟というそのためだけに行われた悪行と、副産的に発生した偉業の数々。かつてよりはるかに蛮行の減ったこの世界で再びドフラミンゴが〝ファミリー〟と巡り会えたのは、彼の生い立ち——詳し
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    waremokou_

    DOODLE12月を過ごす雉ドの現パロです。警察(警視長)の雉と、社長のドです。不定期更新です。
    1.おかえり、ここが君のいえ「あー…… っと、あらら、どこにしまってあるんだか……」
     ひとつ、またひとつ引き出しを開けては、閉める。まだこの家の全てに慣れない自分がいて、同時にその不便をこんなにも楽しんでいる自分もいる。ぐらぐら具材の踊るスープは、ご近所を散歩がてら歩いたスーパーでつい目に止まりうっかり買ってしまった蕪が柔く煮え始めている。近所、と言ってもここは閑静な高級住宅街であり、おれの場違いなおんぼろ自転車が非常によく目立つほどの場所であるからして、おれが通い慣れたような地元密着型の激安スーパーなんて一つもない。無駄にシックでハイセンスな外見と、何気なく置かれている生鮮野菜がとんでもない値段をしているコンビニだとか、聞いたことのないブランドのスーパーがあるだけ。品揃えもなかなか興味深く、少しはしゃぎすぎたことは否めないだろう。何ひとつとっても、想像する一・五倍の値段がするのだ。その分、惣菜ひとつとっても、どうにも美味そうであるのが憎いところだが。牛蒡とにんじん、玉ねぎと白菜。蕪を手に取り、ここ最近急に冷え始めたから温かいスープなんか飲みたいな、と思うまではよかった。ただ、どうせなら具材がうんとはいって食べ応えがあるものがいい、せっかく買った圧力鍋に出番をやって、煮込まれた野菜の甘さや優しい食感を楽しみたいし、明日の朝には煮崩れた野菜でとろみのついたスープをパンにたっぷり浸して食べてもいい。ちょうどスーパーに併設されたベーカリーでは、なんともうまそうなバゲットがこれまた綺麗に並べられており、空腹を刺激する罪深い匂いで客を誘惑していて—— と、あれこれ欲望のままかごに野菜やらを詰め込んだのは、少し誤算だったかもしれない。まあでもほくほくと煮えた柔らかそうな根菜や、透き通った玉ねぎを見れば後悔はない。骨からとろける手羽先はベーコンよりあっさりした味の好きなあいつのために。どれもこれも圧力鍋様々である。味付けなんてコンソメのブロックがあれば決まってしまうし、味見すればするほど美味くなっている気がする。ついでに、買い込んでしまった野菜でごぼうのサラダと、浅漬けと、ちょっとしたトルティージャもどき——キッシュというか、オムレツというか、とにかくトマトと、じゃがいもがわりの蕪をたまごと焼いてみたもの、だ——なんかを用意して。まるでデパ地下みたいなガラスケースに入って量り売りされている惣菜の海老マヨも
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