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私が三毛縞に出会ったのは、夙に夏らしさを見せ始めた五月の中頃だった。その日の夜は、雨続きで冷え込んだ数日前とはうって変わってひどい暑さで、まだ残る梅雨の湿気も混じり合いとにかく、全く不愉快な夜だったと記憶している。ゲオスミンの黴たような空気のかおりが蒸れる夜風に溶け出し、雨嫌い、そして夏嫌いの私にはとにかく、最悪と評するに足るような、最悪の夜だった。いや、それだけならまだ、私はあの日あんなにも苛立ちに行き先を委ねることはなかったかもしれない。
大きな文学賞を逃した。黒柳誠はもはや過去のものとなったのだと囃し立てる世間の声、意味を含ませすり寄ってくる編集の態度に腹も立ったが、何より腹立たしいのは――その結果を、妥当なものだとどこかで納得してしまう自分に、だろうか。入賞しただけでもいい方だ、黒柳誠はもう〝中堅作家〟ではないのだからキャリアの重みで選ばれなかったのではないか、そんな慰めの言葉さえ自分の神経をめちゃくちゃに掻き乱すような気がした。別に狙った賞だったわけではない。気づいたらノミネートされていたのだと知ったくらいだから、そも関与もしていなかった。無関心のままいればよかったのかもしれない。ただここ最近の――まるで虚の闇を飲み下したような退屈と無気力は、大賞を逃すという、私にとっては新鮮な〝敗北〟により命の灯火まで悪戯に吹き消したような。少し、休みを取られてはどうか。そんなことを言う担当に対しいっそ首でも締めてやりたいほどの怒りも湧いたが、その激情に飲まれるような稚拙ささえみっともなく感じて、結局、何一つ言い返せぬまま暫くの休みをとる羽目になったのだ。
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