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    kurokuro_happy5

    @kurokuro_happy5

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    コンパスの86組(10、55、13、08)が好きな文字書きです。絵はかけません。
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    アリス世界線86の夢小説

    #86組

    ようこそ、僕らのワンダーランドへ【夢】ねぇ、起きて


    ……起きて



    何処からか、声がする……
    それに、体を揺さぶられているような……
    「起きて、起きて」
    ゆっくり目を開ける。開けた視界には、見しった顔が映っていた。
    「ん……?それは別の世界の僕の名前だね。でも、【僕】は零夜じゃない。アリスだよ」
    アリス、というと、エプロンドレスを着た金髪の女の子が浮かぶが、目の前の彼はそのような格好ではない。所々アリスモチーフのような所はあるけれど、髪も黒髪だし頭にリボンも無いし、アリスとは程遠かった。
    それよりここはどこなのだろう?覚醒した頭が漸く疑問を抱く。
    「住人が増えるのは珍しいことではないけれど、君みたいなケースは初めてだ。まさか鏡の中から出てくるだなんて」
    鏡の、中……?
    ここに来る前何をしようとしていたか思い出そうとするが、上手く思い出せない……
    立ち上がると、零夜……アリスは、手を差し出した。
    「君に興味が湧いた。本当は国の案内は僕の担当ではないけれど……僕が直々に、君を案内しよう」
    国の案内……?
    私は別にここに住みたいとか、そういったことをしに来た訳では無いのは今の混乱した頭でも分かる。
    焦って歩き出そうとする彼を止め、ここは何処かと尋ねると。
    「……? 知らないで来たの?ここは不思議の国……僕のワンダーランドだよ」
    僕のワンダーランド、という単語は少し引っかかるが、目の前の彼がアリスと名乗っていたことには納得が行く。この異様に鏡だらけの部屋と、何処と無く現実感のない空気感の謎も。
    ここが彼の言うように異世界だと言うならば合点が行く。とりあえず外を見てみないことには確信はできない。
    ということで、私は彼に、案内をしてもらうことにした。




    城の外へ出ると、絵本で見た景色が広がっていた。
    あぁ……此処はやはり、彼の言うように不思議の国なのだと、納得せざるを得ない風景。
    見たことの無い鳥、見たことの無い色の草花や木、森……ヘンテコな装飾がされた建物に、巨大なキノコ……現実主義の自分にとっては目眩がする光景だが、どうも夢とは言い難いほど意識ははっきりしていたし肌に触れる独特の生ぬるい空気も本物だ。
    「さぁ、行こうか。まずは街の方へ行こう。そこに白うさぎもいるはずだから」
    白うさぎ……確か物語では、白うさぎを追いかけてアリスは不思議の国に迷い込む。
    だけど彼はまるで身内のように白うさぎの名を呼んだ。違和感を感じつつ、今は彼に着いていくしかないと大人しく後ろを歩く。
    街、というよりは、住宅街が近いだろうか。ワンルームくらいの小さな家が隙間なく建ち並んでいる変わった光景。すれ違う人々は何故か此方を見てヒソヒソと話している。
    「見て、アリスよ。何の用かしら」
    「アリス自ら案内なんて、可笑しいわ」
    どうやらこれはかなり異例のことらしい。アリス自身も、「国の案内は担当じゃない」と言っていたし……
    というか、物語と大きく違いすぎる。この国でのアリスは一体、どういう立ち位置なのだろう?
    「あ、いたいた。白うさぎ」
    「! アリス!」
    驚愕した。また見知った顔がいた。
    零夜がこういう世界にいても、彼はパラレルワールドがどうとかよく言ってるから別に違和感は無いのだが、
    彼は……白いうさぎの耳が生えた十文字アタリがここにいるのは、かなり驚きだ。
    「ん?アリス、そいつは?」
    「彼女はここの住民になる予定なんだ。ただ、少々興味が湧く事項があってね……僕自ら案内しているんだ」
    「へー、そうなんだな!よっ、オレは白うさぎ!この国のことなら何でも訊いてくれ!」
    十文字アタリ、と名乗らない辺り、やはりこの世界では不思議の国のアリスに出てくる登場人物になっているのか……
    ぺこりと頭を下げると、アタリ……白うさぎは持っていた懐中時計を見る。
    「うわっ!?もうこんな時間かよ!」
    「間に合う?時間、伸ばそうか?」
    「いや、そっこー間に合わせる!それに時間を動かしたら、そいつを案内する時間が減るだろ?大丈夫だから行ってこいよ」
    「わかった。頑張ってね」
    「今日はそいつの案内に免じて許すけど、明日はちゃんとやることやれよなアリス!じゃあな!」
    そう言って彼は猛スピードで走っていってしまった。
    ……相当仲が良いみたい?
    「白うさぎは僕の代わりに国の色々なことを解決したり、世話をしてくれたりしてるから忙しくてね。まぁ、また後で会えるさ。次に行こう」
    そう話す彼は少し嬉しそうだった。白うさぎのことは、かなり気に入っている様子だ。




    「……さて、一通り案内は住んだけれど…………」
    街と、その向こうにある海岸、動物達が集まる草原の案内の後、アリスは嫌そうに反対側にある暗そうな森と、その近くに建っている木造の大きな家を見た。
    「あそこはこの国でトップクラスに頭のおかしい二人がいてね。寧ろ知らなくていいくらいなんだが……万が一のことがあってはいけないから、先に危険だということを教える為に案内しておくよ。いいかい?僕から決して離れないで、彼らの言うことは全て無視するんだ。わかった?」
    コクリと頷く。
    彼がここまで言うということは、かなり頭がおかしいのだろうと身構える。
    まず向かったのは、木造の大きな家。外には横に長い大きなテーブル。その上には空の食器が綺麗に並べてある。
    アリスが家の扉をノックすると、「はーい」という聴いたことのある声が返ってきた。
    扉が開くと、予感は的中した。
    「!! アリス!!君自ら僕の家の扉を叩くなんて!こんなに頭のおかしいことは無いね!」
    ……マルコス’55だ。
    いつもの猫耳やリリカちゃんのTシャツはないけれど、声と顔からして一致してる。
    「やぁ、マッドハッター。一瞬来ただけだからもう帰るよ。じゃあね」
    「えぇ!?待ってよアリス……ん?その子は?」
    マッドハッター……確か、アリスをお茶会に誘うキャラクターだった気がする。彼は目敏くアリスの後ろに隠れていた私を見つけると、サッと移動して私を物珍しそうに見つめた。
    「見たことない顔だね、もしかして新しい住人?女の子なんて珍しいなぁ、しかもアリス自ら案内だなんてもっと珍しい。ふーん、へー……ねぇアリス、彼女と話がしたいな!」
    「行くよ」
    「待って待って待って!ねぇ君、僕と話さない?お茶会しようよ!美味しいお菓子とお茶をご馳走するからさ!」
    マルコス……マッドハッターは早口でまくし立てる。そこはマルコスに似てる……けど、目が怖い。ニコニコしてるけど、何か企んでる目だ。
    アリスが私の前に庇うように立って、私の手を握る。彼がここまでするってことは相当危険なんだ、と本能が告げた。
    「お茶会はしないから退いてくれ」
    「退いて欲しいの?退いて欲しいんだね?でも退かなーい!ねぇねぇ、そこの子!僕とお話しようよ〜!」
    言われた通りに目も合わせず無視し続けるけど彼はしつこかった。アリスも困ってるみたい……
    「やはり来るんじゃなかった……いいから退いてくれ、でないと……いや、これはやめておいた方がいいか」
    「えぇ?いつものやらないの?どうして?」
    「……」
    「あぁ!その子が怖がるから?でもいずれはお目にかかるわけだし、それが今でも問題ないと思うよ?ねぇ、じょ」
    「もう一度だけ言う。退け」
    マッドハッターが何かを言いかけた時、アリスの低い声が響いた。顔は見えなかったけど、イライラしてるのが伝わる……
    「わ、わかったって。でも……後にすればするほど、その子はもっと怖がると思うよ?」
    「……関係無いさ。行こう」
    「また来てね〜!」
    マッドハッターは手を振りながら私達を見つめていた……



    アリスに連れられた先は、暗い森の中。毒々しい色の木や草、花、如何にも毒がありそうなキノコが生えた森の中を、もうずっと歩いている気がする。
    どれだけ見回しても同じ景色だ。
    「……チェシャ猫、いるんだろう」
    アリスが立ち止まっていうと、近くの木の葉がガサガサと揺れた。
    「もうわかっちまったのか?俺様の迷路で迷ってるってこんなに早くわかるなんて、やっぱお前は頭おかしいぜ!アーリス♡」
    近くの木に寝そべっているのは……猫耳としっぽを生やしたサーティーンだった。
    もう驚くことはなく、あぁ、っぽいな〜とだけ頭の隅で思った。
    「ん?嗅ぎ慣れない匂いがすると思ったら……何だそいつ?」
    「彼女は新しい住人だよ。今国を案内しているところさ」
    「ふうん」
    すると、チェシャ猫がスゥッと吸い込まれるように消えた。目を擦って確認してもいない。するとすぐ傍ですんすんと聴こえ振り返ると、彼が立っていた。
    「悪くねぇ匂いだな?アリスが傍に居るからじゃねぇ、お前素質あるな?」
    「チェシャ猫、彼女が怖がっている」
    「そんな硬いこと言うなってアリス♡今すぐ匂いをつけようとは思わねぇよ」
    アリスが庇ってくれるけどその度にチェシャ猫は消えて私の後ろに回り匂いを嗅いでくる。
    「ン〜……♡お前いい匂いだな、もう少し嗅がせてくれよ」
    「チェシャ猫」
    「へいへい。もうやめるって」
    アリスが低い声で言うとチェシャ猫はサッと離れて木の上に戻った。
    「しかしアリス、お前直々に案内なんてどうした?いつも白うさぎに任せてんだろ」
    「彼女は少し珍しくてね。ちょっと興味が湧いたから、観察がてら一緒にいるんだ」
    「そういうことかァ。……ま、大事な物無くさねぇといいがな」
    と言いながら、チェシャ猫は首をとんとんと叩いた。それはなにかのメッセージのように思えたけれど……真意はわからない。
    こうして、国の案内は終わり。気づいたら夜になっていた。けれど不思議と空腹や疲れなどは感じなかった。
    「暗くなってきたね。城に戻ろうか」
    ……そういえば、もう一つ気になっていた。


    ​───────アリスって、城に住んでたっけ?


    「少し待っていて」
    入ってすぐのロビーに立たされて、言われたので待つことにする。近くには小さなトランプ兵達が忙しそうに走っているけれど、何をしているのかは分からない。
    あ、一人転んじゃった。よいしょ……もう転ばないようにね。
    「……」
    「!?」
    嫌な気配を感じてバッと振り返ると、そこにはアリスが立っていた。もう戻ってきたんだ、とホッとした、次の瞬間。
    空いていた距離が一気に縮む。
    「……君、こうして近くで見るととても素敵だね」
    急に褒められて、頬に手が添えられる。何故か彼の表情は、うっとりしていた。
    「柔らかくて、細くて、白くて……惚れ惚れするよ」
    頬に添えられていた手が、するりと、下へ移動する。
    嫌な汗が背筋を伝った。
    「​───────君の首」
    アリスがそういった瞬間、手が首をぐっと掴む。苦しくてアリスの手首を掴むけれど、離れない。
    「君があの部屋で倒れていた時からずっと見ていた……君のその首を……ずっとずっと観察していたけれどやはり今までの住人とは比べ物にならないくらい綺麗だ……その首を落としたらきっと……あぁ、考えるだけでゾクゾクするよ……」
    その時、彼の手に……白い大鎌が握られているのが見えた。
    やばい、ころされる。
    直感的に思って、どうにか手を振り払って城の奥へ逃げた。
    何処かに隠れようと扉という扉に飛びつくが、全て開かない。どうして……!?
    早く、早く隠れないと……!!
    コツ、コツとアリスが私を探している音がする……
    走り回って、大きな白い扉を見つける。その取っ手に触れると、
    開いた。
    中に入れば、白い家具しかない部屋だった。そこの、クローゼットの中に身を隠す。
    バンッ!!と扉が開いた。危ない、もう少しで見つかるところだった……
    「……」
    息を殺す。ここでどうにかやり過ごせば、上手く逃げられるかもしれない……
    ……まさか、こんなことになるなんて。一番頭がおかしいのは、アリスだったのだ。
    いや、アリスというよりも、今の彼は……
    「女王様、居たか?」
    「……いない。そちらは?」
    「いねーや。扉の鍵、全部閉めたはずなんだけどな〜。おかしいな」
    女王様……やはり彼は、アリスではなく、ハートの女王様だったんだ……色々気になる所はあるが、それなら僕のワンダーランドと言っていたのも、城に住んでいるのも、マッドハッターの話や、チェシャ猫のメッセージにも納得が行く。
    扉の鍵が開かなかったのは、白うさぎが先回りして鍵を全て閉めていたからか……
    どうしてそこまでして私の首なんか……
    「何処に隠れたのだろう。早急に見つけてあの首を切り落とさないと。マッドハッターとチェシャ猫に目をつけられた以上、早くしないと面倒なことになってしまう」
    「だな。つーか、ここに入ったはいーけど……ここって普段、お前の意思が働かねーと開かなくね?」
    「そうだね、この部屋は特別だから、僕しか開けられない」
    ……?私が取手に触れたら、開いたのに……?
    どういうこと……?
    「とにかく、オレもう一回こっち探してみる!」
    「あぁ、頼むよ」
    ……靴音が遠ざかって、扉が閉まる音がする。
    早く、ここから逃げないと……殺されてしまう……!
    ここからロビーまではそう遠くないはず。だから、走れば間に合うかもしれない。
    そう思いながら走る準備をしつつ、ゆっくりと扉を開く​───────





    「みーつけた」





    ヒュ、と喉が鳴る音がした。
    私が扉を開くと、すぐそこに、アリスが立っていた……
    押しのけて逃げ出そうとした手が掴まれ、ぐいと引き寄せられ、すぐ近くの大きなベッドに放り込まれる。アリスは私の上に馬乗りになり、顎を掴んで上げた。
    「君……この部屋にどうやって入った?ここは"寵愛の間"。僕しか開けられないはずだよ」
    すぐ傍の大鎌が目に入って、危機感を覚え素直に話す。
    「……なるほどね。やはり君、只者じゃないようだね。今首を斬るのは惜しいな」
    何事か呟くと、女王は私の耳に唇を寄せた。
    「ねぇ……僕達とここに住まないかい?この部屋、貸してあげるよ。この部屋が君を選んだんだ」
    言葉の意味はよく分からないが、首は斬られずに住む、のだろうか……
    死なない為には、頷く他ない。
    何かを企んでいるのは明白、けれど何を企んでいるのかは分からない。
    でも今は、これしかない……
    頷くと、女王は薄ら笑った。
    「いずれ、僕から君に寵愛を授ける時が来るのかもしれないね。今から楽しみだ」
    私を解放し、女王は私の手を握る。
    「ようこそ、"第二のアリス"。歓迎するよ」
    私は彼を怯えた目で見ていたけれど、彼はそんなことも気にせず、大鎌を持って立ち上がる。
    「あぁ、それと」
    そして私を振り返った。
    「僕は……アリス兼ハートの女王だ。アリスでも女王でもあるが、いつも通りアリスでいい。この世界の君の名は、また今度決めよう。今日はゆっくりおやすみ」
    部屋の扉が閉まると同時に、力なくベッドに倒れる。
    走り回ったのと緊張で疲れたのだろう、すんなり眠りに入っていく……
    この世界から抜け出せる日は、まだ遠いのかもしれない。
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