PN利き小説 エントリー作品②「二本指のサイン」観客席の中で、唯一人だけが知っていた。
あの二本立てた指が、ただのVサインではない事を。
青々と芝生が敷き詰められたフィールドをスパイクが踏み締め、ヘルメットを被った選手達が陣形を組む。
ハイスクール・フットボールの州大会。そのトーナメント戦がスタジアムで行われていた。現在フィールド上に出ている両校の実力はほぼ互角である。後半戦に突入し、得点も拮抗していた。お互いの高校の生徒やサポーター達が、観客席で固唾を飲んで見守っている。
「セット、ハット!」
オフェンスの選手の掛け声を起に、攻撃陣が動き出す。クォーターバックからランニングバックの選手ーージョンにボールが回った。
相手校の守備を前線のオフェンスの選手が激突する様に食い止め、その隙間を縫うように相手陣地を走り抜ける。そのまま一直線にエンドゾーンを目指すジョンに、後方に控えていたディフェンスバックが迫り来る。そのタックルを既の所で身を翻し素早く躱すと、ジョンのシューズがゴールポスト前の敵陣を踏み締めた。
タッチダウンだ。
審判が両手を上げて得点成功を示すと、歓声が沸き立った。チームメイトがジョンを取り囲み、勇姿を讃えている様子だ。仲間や観客からの賞賛の声を浴びながら、ジョンは観客席を見渡した。
スタンドの一角に目を止めると、ジョンは観客席に向かって二本の指ーー人差し指と中指を立てて見せた。それは丁度Vサインの形になっており、観客席の誰から見ても勝利の証としてのポーズと捉えられた。
唯一人、ジョンが見つめる先にいる生徒ーーニールを除いては。
「観客席に向かって、ハートマークを見せるのが流行っているんだ」
数日前、ジョンとニールは帰路に就いていた。試合の直前は休み時間も放課後も練習が詰め込まれる為、ふたりで時間を合わせて帰宅できる機会は限られてくる。最近付き合い出したジョンとニールにとって、この時間は貴重で掛けがえのないものだった。
「ハートマーク?」
「チームのファンクラブに向けてね。好プレイをした時なんかに……こうやると、観客席が盛り上がるんだ」
ジョンが指でハートマークを作って見せる。気恥ずかしそうにハートを向けてくる様子に、ニールは笑った。
「やっぱり俺がやると似合わないよな」
「そうじゃないよ、何だか可愛くて……それに今、僕だけにハートマークを向けてくれているのが嬉しくて」
ふたりの間に和やかな空気が流れる。ふと思い立ったように、ジョンが口を開く。
「決めた。今度の試合、得点を入れる事が出来たらニールに向かってサインを出すよ。ただ、ハートマークはやっぱり照れ臭いし、ファンクラブに向けたいわけじゃないから……」
そう言うと、ジョンは人差し指と中指を立てた。
「このサインを出すよ。これはニールだけに向ける、俺のハートを届けるサインだ」
大歓声の中、ジョンはそのサインを観客席にいる唯一人に向ける。大勢の観客がいる中で、お互いにだけわかるサイン。ニールはたまらない気持ちになった。顔を赤らめながら、ニールもまたぎこちなく人差し指と中指を上げて見せる。ジョンはニールからのお返しのサインに気付いた様子で、ヘルメットの奥で満面の笑顔を浮かべた。
ニールの隣に座る友人はその意図を何となく察して、呆れ顔をしている。ふたりはそんな友人の様子も、熱気に包まれる観客達もお構いなしに、二本指のサインを送り合った。
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11/17追記 作者コメント
素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました!未だに拙い小説しか生み出せない身ですが、小説書きの方から本テーマに関するアイデアやご助言を頂いたりしながら書きました。学生AU小説を書くのは初めてです、青春らしいスポーツ要素とラブコメ要素を同居させたいと思いました。アメフト描写の為に、アメフトに関する解説動画やドキュメンタリーを観てみたり、アメフトをテーマにしたネット小説を読んだりしました。ボーラーズはまだ未視聴なのですが、そのうち観てみたいなと思っています。
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