だってしょうがないじゃない【オル相】「俺の後ろに立たないでください」
そう、不機嫌そうに言われることが増えた。最初は何か気に障ることをしてしまったかなと思ったけれど、繰り返される注意の状況を列挙して考えるとひとつの結論に達する。
今夜も私がキッチンでコーヒーを淹れている相澤くんの背後で、お皿を食器棚に片付けようとしたらものすごい勢いで振り向かれた。
視線が決まったところをなぞるのも行為の意味を探すのにとてもヒントになった。
相澤くんはまず私の手の位置と体の向きを確認して、それから首元に視線を留め、最後に顔を険しくしてから私を仰ぎ見る。
「……」
今回はお皿を片付けていたので文句は出なかった。相澤くんは視線を戻してまたコーヒーに意識を向けたので、私は皿を棚に置いてぱたんと扉を閉めてから、踵を軸にくるりと体を反転させてそのまま背後から抱きしめる。
「ちょっ!危ないでしょう!」
確かに熱湯を使っているけれど彼が手に何も持っておらず、滴り落ちる焦茶の液体を待っているだけなのはわかっていたのでその注意は聞こえない。
「俊典さん、俺の後ろに立たないでって何回言えば」
腕の中で相澤くんはすぐに体を反転させ私を睨む。でもその不機嫌さが何に起因するか、私の推測が当たっているのなら残念ながら可愛い顔にしか見えないわけで。
「私のシャツばっかり気にしてさ。教えなければ良かったな」
「……っ」
今日の部屋着の襟首は。だるんだるんかそうじゃないか。ぴんとしていれば近寄ることを拒み、だるんだるんならその原因を思い出して遠ざかる。
最近の相澤くんは私に愛させてはくれるけれど、警戒心が強くなってしまって少しさみしい。
体を曲げて強く突き出した下唇を食んだ。蕩けるはずの緊張はガチガチに強張ったままで手強い。
もう一度甘噛みすると、今度はちょっとだけ濡れた舌先が唇を舐め返してくれた。
「触りたいなら服脱いでください。まず」
「強制脱衣?」
相当気にしてるんだなあ、と息を吐いて私は相澤くん越しにマグカップに完成したコーヒーを注ぐ。
「……寝室にエアコンは付けてます、から」
小さく告げた相澤くんは私の腕の中でくるりと私に背を向けて丸めた。自分の分のコーヒーをちょっとだけ入れて逃げようとする耳が赤くて、私は今日の服がダメになっても構わないなと思いながら片手で捕まえた相澤くんの手からマグを取り上げてキッチンに置いた。
ああ。また後で怒られる(嬉しい)。