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    ankounabeuktk

    @ankounabeuktk

    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    最終回ネタ含みます
    遠恋の可能性が思ったより深く刺してきてる

    マスタード抜きケチャップで【オル相】 スマホのアラームをセットして枕の横に投げた。ベッドに倒れ込み、手探りで充電ケーブルの先端を探り当て放り投げたばかりのスマホの下部に差し込む。ぶん、と小さく一度震えたことで充電が始まったことを察し、そのまま馬鹿でかいベッドの端に寄って目を閉じる。
     ごろりと寝返りを打ち、枕が湿っているのに気がついた。
    (……面倒臭えな)
     とは思いつつ、頭の中の俊典さんが「髪は乾かしてから寝ないと風邪引くよ!」と口やかましく言うので、怠惰と躾の狭間で揺れた俺は目を閉じてから数秒思考を止め気合いで起き上がった。
     寝るつもりで消した家中の電気を適当に点ける。
     眠気の強い体をよろよろと引き摺って洗面台でドライヤーをかけた。髪を切ってからというもの、長かった頃に比べれば格段に乾くのが早くなった。それはつまり何もしなくてもそこそこの時間で乾くと言うことでもあるので、俊典さんがいない日は自然乾燥のまま寝ることも多い。今夜は気分もどことなく沈みがちで疲れていたから、それから目を逸らすつもりでシャワーを浴びてさっさと寝ようとしたのに結局これだ。
     今度こそ眠れる、とベッドに倒れて手元を見ずに義足のベルトを外す。足元から引き上げた手が充電しっぱなしのスマホに触れて暗い画面が明るくなった。
     そこに、さっきまで無かった表示がある。
     着信 八木俊典と記されたそれを、俺は寝転がった格好でベッドに置いたまま指で操作してスピーカーにした。
     呼び出し音が三度鳴り、向こうと繋がる。
    『もしもし』
    「すみません。髪乾かしてました」
    『ああ、ごめんね。もう寝る時間かい?』
    「そ、ですね」
     俊典さんの声を聞いても俺の眠気は去る気配がない。
    「何かありましたか」
    『ん?相澤くんの声が聞きたくなって。カメラオンにしてもいい?』
    「嫌です」
    『うーん、つれないなあ』
    「暇なんですか?」
    『ちょっと空き時間でね』
    「暇なら、俺が寝るまでなんか話しててください。反応無くなったら切っていいですよ」
    『アメリカから寝かしつけするのかい?』
    「ええ。可愛い恋人を放置して遠い国へ行ってしまったんですからそれくらいやってください」
    『そうだね。なるべく早く帰るよ』
    「やることやり遂げるまで帰って来なくて良いです」
    『愛想尽かされそうだなあ』
    「尽かしませんよそんなことで」
    『本当?』
    「何しに行ってるか俺が知らなかったら尽かしてるかもしれませんが」
    『……そっか』
    「……」
    『……』
     暫しの沈黙。
     俺の瞼は既に上下がぴったりとくっついている。
    『……相澤くん?』
    「はい」
    『君に触れたいな』
    「俺もです」
    『後ろからぎゅっと抱きしめて、君の首筋に顔を埋めて眠りたい』
    「……逢えなくなること、納得して送り出したんで。矛盾してるかもしれませんが」
    『ん?』
    「寮で暮らしてた頃は、二人の時間がなくても顔を見ることができてたじゃないですか。プライベートが入り込む余地がなくとも、会話もそれなりにしてて。それこらあなたがあちこち飛び回ったりしても、居場所はわかってましたし国内でしたし、逢いたいって思う暇もないくらいに忙しかったですしね。お互いに優先するものがあったから、あなたに逢えなくてさみしいって思っても我慢できてました。無理やり逢おうとすればできないことはない、だからしない、って」
    『……』
     俊典さんの相槌はなくて、何千キロも離れた乾いた道路を車が走り抜ける音だけが響いた。
    「しようと思えばできる。だから我慢できる。今だってそうです。でも、流石に衝動的に飛行機に飛び乗ってアメリカに行くだけの段取りを組むには、やらなきゃいけないことが多すぎて、しようと思ってもできないなって」
    『相澤くん』
    「誤解しないでください。責めてるわけじゃない」
    『わかってるさ』
    「わかってる声色じゃねえんですよ。プライベートジェットかっ飛ばしてそのためだけに来ないでくださいよ」
    『その手があった』
    「最優先事項、間違わんでください」
     念押しでドスを利かせる。聞こえなかったけれど、多分電話口の向こうで俊典さんは笑ったはずだ。
    『怒られちゃった』
    「じゃ、なんか適当に話してください。俺は寝ます」
    『そうだなあ。研究所の近くに公園があってさ。昼休みにそこを散歩するんだけど、入り口の横に美味しいホットドッグのお店があってね……』
     俊典さんが見ている、俺の知らない景色にひとつずつパズルのピースが与えられていく。
     せめて夢の中で隣を歩けたらいいのに。
     いつ帰って来れるんですか、という俺のためだけの問いかけは今夜最後まで俺の喉を震わせることはなかった。
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