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    はねた

    @hanezzo9

    あれこれ投げます

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    はねた

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    両片思いからのオル相を書きました。

    #オル相
    orbitalPhase
    #相澤消太
    aizawa
    #オールマイト
    all-might
    #hrak
    lava

    はつ恋の 風が吹いて、空は青い。
     なかば開いた窓から夏の匂いが忍びこむ。校舎に沿い生えた木々が、陽を透かして床に薄い光を溜める。
     相澤は窓辺に背を預けている。
     仮眠室でのことだった。雑然とした室内、中央に据えられたソファにはいま男がひとり腰かけている。ときおりずずとコーヒーを啜る音がした。おなじインスタントコーヒーでもナンバーワンヒーローが飲んでると様になるもんだと、それは口にしないで相澤もマグカップをかたむける。
     テーブルの上には何通も、色とりどりの手紙が置かれている。一番上にある菫色の封筒の、筆跡が綺麗だなとそんなことをとりとめなく思った。ナンバーワンヒーローへのファンレターなら気合も入ろうというものかと、おそらくは年齢も住むところもそれぞれだろう差出人たちのことを考えた。
    「緑谷の部屋はあんたのポスターやらグッズやらで大賑わいって話ですよ」
     ひとりごちれば、オールマイトは律儀にもこちらをふりかえる。
    「ありがたい話だね」
     トゥルーフォームだとかいう、普段あちらこちらのポスターやら雑誌やらで見かけるものとは違ったその姿を、相澤はマグカップ越しにしばし眺めた。
    「初恋泥棒」
     そう言えばオールマイトはきょとんとする。妙に呑気で愛らしいそのさまに、エンデヴァーあたりが見たらそれだけでキレそうだなとそんなことを考えつつ相澤は先を続ける。
    「ナンバーワンヒーローの実績かける活動年数でしょ。下手したら地球の総人口の何倍もの人間があんたに初恋を奪われてるんじゃないですか」
    「いや、さすがにそんなことは」
     オールマイトはあははと笑って頭を掻く。テーブルに積まれた手紙に目をやり、いやあるだろと相澤は心のなかで呟いた。相澤がうまれるよりもずっとまえから世界の頂点に君臨し、圧倒的な強さと優しさによって老若男女に慕われるヒーローはけれどどうにもおのれをわかっていないところがある。
     テレビの街頭インタビューで、雑誌のファンページで、SNSで、ナンバーワンヒーローに恋焦がれた過去を語るものはひきもきらない。そういうのが目につくたびいちいち覚えてる俺もアレだがと心のうちでこっそり自嘲しつつ、相澤はコーヒーをあおる。
     初恋のたたりってね、そう言うとオールマイトは小首を傾げた。
    「かなわなかった初恋がその初恋の相手に祟るって、そんな話を聞いたことがありますよ。地球総人口の何倍分の報われなかった初恋じゃ、下手すりゃAFOよりたちが悪いかもしれませんね」
     言いながら、さすがに意地が悪かったかと反省する。机に積まれた手紙のいちばん上、綺麗な筆跡にふたたび目をやった。われながら虫のいどころが悪いという自覚はあった。とはいえそれを本人にぶつけるのはいかがなものかと、もはや空になったマグカップを弄びつつ考える。
     オールマイトもまた考えこむように腕組みする。しばらくして、それは困るなと言った。
    「困りますか」
    「困るよ」
    「ナンバーワンヒーローでも?」
    「ああ、ヴィラン相手ならどんな戦いでもそこそこ自信はあるが色恋沙汰は守備範囲外というか、特にいまは祟りだなんて結構切実に困るというか」
    「ハァ」
     闊達をもって旨とするヒーローらしくもなく歯切れの悪いもの言いに、取り合うのも面倒になって相澤は生返事をする。ああまさにいま祟りが実践されている気がする、となにやらよくわからないことをうんうん唸っているオールマイトを、まあそれはそれとしてと切り捨てる。
    「ところでそのトゥルーフォームってのを知ってるのってどれくらいですか」
    「え? ああ、これかい? そうだね、きみと校長と先生方と、」
     ええとねとときどき考えこみつつも、オールマイトはひとりひとり名を呼び指折り数えてゆく。緑谷の名前が出たところで、もういいですよと相澤は遮った。
    「まあ、地球人口のほんの一部ってとこですね」
    「地球どころか日本でもほとんどいないだろうねえ」
     折った指をぐっと拳にして、オールマイトはほほえんでみせる。子どものころから見慣れたヒーローの不敵な笑みとはすこし違う、それから目を外しつつ相澤は話を続けた。
    「なら、そっちの姿には祟りはひっついてないってことですね」
    「え? ああ、そうなるかな」
     ほんとの私がまったくもてないって言いきるのもアレかなあと、オールマイトは言葉にそぐわずにこにこと笑っている。呑気なそのさまに相澤はじろりと睨みをくれてやった。
    「ま、俺以外はの話ですが」
     そう言えば、オールマイトは先ほどよりもずっとおおきく目をみひらいた。
     硬直するナンバーワンヒーローに、相澤はさらにと畳みかける。
    「ま、俺の祟りなんで結構えげつないと思いますけど本人にはどうしようもないって話らしいんでせいぜい頑張ってください。地球規模の初恋泥棒の報いに比べればまあかわいいもんでしょ」
     言い置いて、相澤はよっこらせと窓から離れる。マグカップの始末をするべく部屋の隅にある給湯スペースに立った。
     と、背後で悲鳴のようなものが響く。ふりかえればオールマイトは動揺を絵に描いたならさもありなんといった態で、ソファ越しにこちらに身を乗り出している。ソファの背にまわされたその片腕を眺め、ああこれ昨日クラスの女子が雑誌に載ってたかっこいい男子仕草ランキング1位とか言ってたやつだなと相澤はぼんやりと思う。
    「ちょっと待ってくれ相澤くん、何の話だか私には」
    「あんたが俺を振ったって話でしょ」
    「いつだい!?」
    「こないだ校内で3年のカップル見かけて、ああいうの俺とあんたでもありですかねって言ったら、あんたが、いやでもきみまだ介護保険払う年でもないしねって言ったじゃないですか。だから自費で介護しろってことかエリート校の教師の給料なめんなときっちり養老計画練って持ってったらあんたそれも断ったでしょうが」
    「ああアレ、きみ私が百歳まで生きる試算で計画立ててくれたからちょっと泣いちゃったよ、……いや、じゃなくてあれは言葉のあやっていうか介護保険料は40歳からの徴収できみはそれを払うのもまだまだなくらい若いから、私たち高校生カップルみたいに歳が近くないよねって話で、けしてきみの財力や我が国の社会保障を蔑ろにしたいわけではないんだよ」
    「俺の財布も社会保障もAFOの円安構想のせいで悪化の一途を辿ってますよ」
    「それはもう私たち頑張ってやつを倒さないといけないね! ところで相澤くん、私たち何の話してるんだっけ?」
    「あんたが俺からの介護の申し出を断ったって話です」
    「たぶん違うと思う!」
     なにやら奇声をあげたのち、疲れたらしくソファの背にぐったりとうつぶせるオールマイトを眺めつつ、相澤は洗ったマグカップを水切り場に置く。
     シンクに背をもたせかけ、何が違うんですか、と言った。
    「あんたが俺の手をとらなかったってのは一緒でしょうが」
     金の髪はソファの上にうつぶせられたまま、しばらくして違うよという声がした。
    「きみの祟りは私にはとどかない。なにせ祟る根拠がないからね。……だけど私の手をきみにとってもらうことはできない」
     ゆっくりと、オールマイトはソファから立ちあがる。にこりとした、その目はいつもと変わらず優しかった。
     相澤くん、そう名を呼ばれた。
     ひらりと手のひらをふって、オールマイトはなおも笑う。
    「いまさら愛しいだれかに手をとってもらえると思うほど、私は善行を積んでない」
     四十年もの長きにわたり世界を支えてきた、その手を相澤はみつめる。
     シンクから離れ、オールマイトの前に立った。見あげるさき、そこにある笑みはやはり変わらない。ばかな男だとそう思った。世界の頂点に君臨する英雄は、世界のことばかりにかまけておのれをかえりみる方法を忘れてしまっている。
     なので力づくでその右手を奪い、こちらの手のひらのうちに閉じこめてやった。
     相澤くん、と悲鳴のような声があがるのは無視して、そのままその耳元に口を寄せる。
    「もう一回言ってみてください」
     教師の口調でそう言えば、オールマイトは戸惑ったようにした。
    「……えーと、いまさらだれかに手をとってもらえると思うほど私は善行を積んでない?」
    「いま何か大事な単語をあえて抜かしましたよね、そこのところだけもう一度お願いします」
    「きみの生徒ってたいへんなんだろうね……」
    「話を逸らさない、はいもう一度」
    「……愛しい」
    「で? 愛しくて俺の初恋は祟らなくて介護百年計画は嬉しくってそれで? それでも俺の手はとらないって?」
     まくしたててやれば、しばらくののち深いため息とともに引き寄せられた。
     オールマイトがこちらの肩口にうつぶせる。金の髪が視界の端をちらちらとして、やわらかなひとの匂いが鼻先をかすめた。
     自分を包みこむ熱が、まるで太陽のようだとそんなことを頭の隅でおもった。
    「私、往生際の悪さでは負けたことがなかったんだけどね」
    「そりゃ光栄です」
     ふふと笑う声がして、オールマイトがゆっくりと身を起こす。やわらかに細められた、その目にこちらの姿が映っている。
    「ではあらためて託そうか。英雄は世界に、……真実の姿はきみに」
     祟りもひっついてないまっさらだからお買い得だよと、オールマイトはどこか得意げに笑う。
    「いや、もちろん英雄のぶんの祟りも迎え撃ちますけどね、両方ひっくるめてあんたなんで」
    「きみはほんとうに最高のヒーロだよね……」
     オールマイトはしみじみと言い、それから嬉しそうに破顔した。
     ほんとばかなひとですねとは心のなかで呟いて、相澤はその肩先に顔を寄せる。右手はおたがい繋いだまま、そうしてゆっくり口づけをした。
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