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    ankounabeuktk

    @ankounabeuktk

    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    リクより、半獣化黒猫澤。
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    それが最初のラブレター【オル相】『オールマイト先生、オールマイト先生、至急職員室までおいでください』
     授業中の呼び出しアナウンスは基本的に使われることがない。授業の邪魔をしないために用事があるならその先生がいる教室まで出向いて用件を告げるのが基本的なルールだったが、緊急時はその限りではない。
     オールマイトは図書室で次の演習のための資料を本棚の前でどれにしようか選んでいるところだったが、名前を呼ばれた瞬間に図書室を静かに、でも出来る限り急いで飛び出した。
     今のアナウンスはミッドナイトだ。オールマイトの所在がわからないからアナウンスをしたという可能性もなきにしもあらずだったが、至急職員室までという単語が気にかかる。
     誰か生徒がトラブルに巻き込まれたか或いは敵になんらかの動きがあったのか。
    「私が来た!」
     がらりとドアを開けてオールマイトが飛び込んだ職員室の真ん中で集まっていたマイクとミッドナイトが此方を見る。他の人がいないのは皆授業に出払っているからだ。
     マイクの表情は心配と困惑で、ミッドナイトの表情は面白そうなことになった、と読み解ける。
    「……何があったのかな」
     特にミッドナイトを見れば脳内の緊急度と危険度のメーターが急激に下がって行く。
     オールマイトの問いに二人が答えるより先に、職員室の向こうの給湯室からぶみゃおうと恐ろしく濁声の猫の声がした。
    「……?」
     首を傾げるオールマイトに向けてミッドナイトがニマニマと溢れ出る笑みを広げた手のひらで隠せない顔をして尋ねた。
    「ねえオールマイト、あなた猫飼える?」
    「えっ? いや、私は生き物は……」
    「いや猫って言うか」
     困り眉のままのマイクがちらりと給湯室の方を見遣る。猫はそちらにいるらしい。
    「校長から早退の許可貰ってるんで連れてって貰って良いですか?」
    「私が? でも猫は飼えな」
    「いや、あの、見ればわかります」
     業を煮やしたマイクが言葉の途中でオールマイトの背に回り込みぐいぐいと押す。
    「マイクくん?」
    「ドア開けてください。多分他人の目に晒したら拙いやつです」
    「ええ?」
    「でもマイク、私のスマホにはばっちり画像が残ってるわよ?」
     スマートフォンをかざしてウインクするミッドナイトを横目にオールマイトは訳がわからないまま給湯室のドアノブに手を掛けた。
    「ええと、失礼します……?」
     中に猫がいるのなら逃すわけにもいかない。ドアの隙間に片足を挟み込んで恐る恐る広げた隙間から覗き込んだ中、そこにオールマイトは確かに他人の目に晒したら拙い猫を見た。
     眉間を押さえてドアを閉める。
     垣間見えた猫はオールマイトを威嚇していた。
    「……」
    「個性事故の重複ってこと?」
    「さすが。見ただけでわかるんですか」
    「だからってこんな重複ある?」
    「この世に不思議なことなんかひとつもないんすよ、オールマイト」
    「君の諭し方、普段なら勿論だと頷くけれど今日ばかりはそんな馬鹿なと叫びたい」
    「叫んで貰っても全然オーケーですけど、そのドアの向こうにあるのは現実なんで個性発情期と個性猫化のダブルパンチで中途半端に猫化してサカってる俺の親友をどうか今夜一晩面倒見て下さいよ」
    「言われなくても見るよ! 他の誰にも任せられるわけないし!」
     突然職場で目の前に出された据え膳にオールマイトはその長い指と大きな手のひらで顔を覆い細く長い息を吐いた。
    「クラスのホームルームはお願いしても良いのかな」
    「やっときますよ」
    「有効時間は?」
    「発情期は三時間から六時間。猫化は長くて二十四時間って聞いてるけど短いと半日もないらしいっす。発動からは一時間ってところかな」
     マイクは壁の時計を見上げた。
    「イレイザーは明日も休みにしとくんで」
    「相澤くんなら猫耳生えてるだけなら多分来るよ」
    「そうだ。それが、猫化なんすけど」
    「耳だけじゃないの?」
    「喋れないんすよ」
     オールマイトは職員室に入った時の濁声を思い出す。
    「こっちの言葉は通じてます。でもにゃーしか言えないし、しかも発情してるんでおわんおわんぶにゃあになっちまうみたいっすね。あ、尻尾の有無は確認してないです。発情した猫の腰に触るとますます盛っちまうんで」
    「ええと、私は彼をどうしたらいいのかな」
    「オールマイトのマンションに連れてって頂戴。寮の壁だと声が通るわ。聞きたい気持ちもあるけど」
     どうしてそんなに楽しそうな顔をしているのか尋ねることもせず、オールマイトはそれが良いだろうとひとつ頷いてから意を決して再度給湯室の扉を開けた。
    「あ、相澤くん……? 大丈夫?」
     黒い耳を生やした相澤は給湯室の隅でオールマイトに向けて顔を上げる。
    (……今確認できるのは耳だけか。髭はないかな。尻尾はどうだろう)
     口を手で押さえているのは、鳴き声を慮ってのことだとわかる。それはそうとして、捕縛布に隠れない部分の顔だけでも薄く赤く色付いているのと発熱か此方を見る目が潤んでいて、それだけでも相澤をこの部屋に隔離したマイクに感謝を伝えたい気持ちになる。勿論今は緊急事態だからお礼は改めてさせて貰うとして、問題はこの猫ちゃんをどうやってマンションまで連れて帰るかということだ。
    「私の言ってることわかる?」
     オールマイトの問いに相澤は小さく一度頷いた。
    「マイクくん、タクシーを一台回して貰って良いかな」
    「アイアイサー」
     今はまだ授業中だから廊下を歩いている生徒も少ないだろう。オールマイトはそう判断して職員室の相澤の机の持ち帰らなければならないであろう私物とノートパソコンを自分の鞄に纏めて突っ込む。
    「じゃあ相澤くん連れて早退するね」
    「よろしく〜!」
     飲み会の誘いでも了承したような返事のミッドナイトは既にホームルームへ向かうために相澤の机の上から出席簿を掴んでいた。
     給湯室の中に進み肩を抱いて歩き出そうとしてもそれすらも辛そうだったので、オールマイトは小さく相澤の耳元で囁くように断ってひょいと抱き上げる。文句のひとつも出るかと思ったが、浅い呼吸を繰り返しながらそっとオールマイトの胸に頭を預ける相澤の仕草と伏せられる耳に、込み上げる愛しさを咳払いに変えてタクシーが既に来ていることを祈りながらオールマイトは正門へ走った。




     タクシーの中でも相澤は苦しそうに黙ったままで、時折抑えられない衝動をやり過ごすように隣に座るオールマイトの腕に顔を擦り付けて息を吐いている。なんとか部屋に辿り着いたところで気が抜けたのか、鬱陶しそうに捕縛布を引き抜いて外すと床の上に落とし、もぞもぞとヒーロースーツを脱ぎ始める。オールマイトは慌ててエアコンのスイッチを入れて室温を整えた。
    「……みゃおう」
     名前を呼ばれた気がして振り向くと、オールマイトに背を向けた相澤は下着一枚だけになっていて、その下着の中にぐるりととぐろを巻く何か。座りが悪いらしくぺろりとゴムが人差し指で下ろされて、ぴょこんと五十センチまではいかないだろう黒い艶やかな毛並みの尻尾が疑問符の形にくるりと巻かれて天に伸びた。
    「私はどうすれば良い?」
     発情期と言われてそれを利用してほいほいと抱こうと思うほど節操無しの自覚はない。特に個性事故は本人の意思とは別の力が働いて望まぬ結果になることも少なくないから、いつもなら恋人同士として当たり前の接触にさえ及び腰になる。
    「ひとりになりたいなら寝室に……」
     相澤は相変わらず潤んだままの目でオールマイトのそばに近寄るとしゃがみ込み、頬から顎を膝の辺りに擦り付けた。そのまま体も、腰の辺りまでを何度も擦るのを繰り返す。
    「喋れないんだもんな。触っても良い? 触らない方が良い?」
     オールマイトの問いに相澤は緩慢に頭を回し、上目で見上げてソファに戻って行く。触られたくないという意思表示かなと黙ってその様子を動かずに眺めるオールマイトに向けて、相澤はソファの座面に上半身を投げ出して尻をくいと突き出した。
    「ッフ」
     いつもなら絶対にしない官能的な仕草に危うく血を吐きそうになる。ギリギリのところで堪えて観察すれば、半分しか尻を隠していない下着からはみ出た尻尾が真上を向いてゆらゆらと誘っているように見えるのは興奮故の錯覚だろうか。
     見えているのだろうと相澤の流し目がオールマイトを呼んでいる。
    「相澤くん筆談できるかな!!」
     据え膳の拘束をオールマイトは理性の力で引きちぎる。メモとペンがこんなときに限って左右を見回した視界に入らない。キッチンカウンターに置かれていたそれを引ったくって尻をオールマイトに向けたまま寝転んでいる相澤に差し出すと、のろのろと相澤の手がペンを握った。
    「あっ、文字は書けるんだね」
     それなら意思疎通できるなとほっと胸を撫で下ろしたオールマイトの見下ろしたメモ帳の上に並んだ字面とノックを戻してぽいとソファ上に投げ出されるペン。
    『抱いてください』
    「……あー」
     腕に埋めた顔をちらりとオールマイトに向けて、相澤はオールマイトの反応を確かめている。
     母音しか吐き出せなくなったのは、これがおそらくは相澤の侵食されていない意思であると理解したということ、その上で発情を鎮めるための手段として恋人である自分が求められているということ、そしていつもならば自分から行為自体を誘ってくることがほとんどない相澤が手書きで残したこのメモの希少価値。
     メモ帳を拾い上げてフリーズしているオールマイトの腕に尻尾がするりと絡んだ。
     螺旋を描いて登ってくる艶めきの中にひやりとした黒。
     耳と尻尾はあれど、オールマイトを見つめる相澤の眼差しは夜更けの寝室のベッドの上で達した後大きく肩で息をしながら物足りなさを訴える視線そのものだ。
    「……んみゃおう」
     オールマイトはメモとペンを間違っても転がり落ちることがないようテーブルの真ん中に置き、切なく苦しそうな黒猫を抱き上げて寝室へ運ぶ。
     黒猫は大きな大きなシーツの海で溺れて、そうして夜半過ぎ、人に戻ったらしい。


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